70.サモン!!!
魔法道具屋は通称、魔道具屋とも呼ばれ、俺達はその建物の前に辿り着いた。見上げると、尖った三角屋根にモコモコと煙を立ち上げる煙突と何かが出入りしていそうな小窓があり、全体的にこの建物の雰囲気は周囲とは異なる。
店内に進むと、これまた屋根繋がりの三角帽子を膝に掛けた白髪の老婆が、古めかしい椅子に揺られながら日向ぼっこをし、
「おや、いらっしゃい」
こちらに気付き微笑みながら話し掛けてきた。
「召喚魔法をやりたいんだが、道具はここで売ってるか?」
「レベル1のやつね。一つでいいかい?」
「ああ」
尋ねた俺はこちらの要望を見抜いた老婆に一瞬驚くが、身なりで察したのであろうと思いそのまま返事を返した。すると、
「私もやりたーい!」
「えっ!? モモちゃん!?」
「ダメだ! さっきも言ったろ。何が出るか分からないから、とりえずは一回だけだって」
「ちぇー!」
「あとで、何か買ってやるから」
「やったー! お兄ちゃん大好き!」
(こいつ…、今のはわざとだな。だが…)
突然モモが手を伸ばして声を上げたのでリリーは驚き俺は道中での説明を再度行ったが、唇を尖らせたモモは続けて気遣いながら話をした俺に即答したあと抱き付いた。様子から察した俺だが、モモは自分で召喚を行えない事への仕返しをしたのかもと思いそれ以上の追及は避けた。
「一つなら、小金貨1枚よ」
そんな俺達を見つめながらゆっくりと立ち上がった老婆は、微笑みながら優しくこちらに話をした。俺は抱き付くモモをそのままに、気を取り直して会話を続ける。
「安いんだな」
「レベル1のモンスターを、呼び出すだけだからね。この魔法陣も簡単で、すぐに作れるのよ」
「召喚は、手軽なんだな。それなら人気があるのか?」
「いいえ。それはないわ。その子を育てないといけないし、お世話も大変だからよ。それと先に話しておくけど、召喚したあとにその子を外に捨てはだめよ。それをしたら、生態系が狂ってしまうからね」
(捨てる気はないが呼び出したあとはずっと一緒ということは、飼うということだ。ドラゴンが出たら、逆にまずいのか?)
老婆は棚のスクロールを手に取り説明したが、俺が評判を尋ねると静かに首を横に振ったあと注意を促した。そして不安を抱いた俺だが、
「今までに、ドラゴンが出たことはあるの?」
「その話は、聞いたことがないわ。ただ…、出るはずなんだけどね~」
モモが尋ねると、老婆は怪訝な表情を見せた。
(もし、ドラゴンが一度でも召喚されれば、このスクロールはもっと人気が出るんだろうな。とりあえず、滅多にないみたいだが…。ん~、出たら出たで、その時に考えよう)
試さなければ判明しないので、俺はこの考えは保留にした。
このあと、俺達は他の商品も確認し、
(ここには、また来ることになるだろうな)
俺は錬金術で使用する物が多く見られたのでそう予想した。そして下見を終えた俺達は召喚道具を一式購入し、店をあとにした。
◇
宿に戻った俺達は、召喚を行うために裏庭に回る。ここには井戸があり、普段は洗面所として使用するが、囲いはなく広さも十分でこれを行うには丁度良かった。勿論、宿の主人には事前に話を通し、
「頑張れよ!」
と、快く許可を得ていた。
それと、今回の召喚は俺が行う。誰がという話は出たが、まずはリーダーからということでこのように決まった。モモはこれを行いたかったようで話をした当時は渋っていたが、今は元気良く俺を応援をしてくれている。
(あとに引かないモモを見てると、こっちも、元気が出るな。さっきの事もあったし、ここは頑張ろう!)
早速、俺は召喚の準備を始める。とはいえ、それは簡単だった。地面に魔道具屋で購入した四角い大きめなスクロールを地面に敷き、果物や魔法の粉などの供物的な物を四方に設置して完成だ。
「お兄ちゃん、頑張って。ドラゴンだよ! ドラゴンを出して!」
「ルーティ頑張って! 移動が楽になる、モンスターを出して!」
(応援と願望が、ごちゃ混ぜになっているな…。いかん。今は集中しよう! この際ドラゴンでもいい。飼うのは大変だが、なんとか世話はしてみせる!)
モモとリリーの注文に俺は心を若干乱されたが、直ちにそれを修正して手気合を入れ直した。そして、声援で加速する湧き上がる感情を押さえつつ、魔力に意識を傾ける。
(気軽にやればいいと婆さんは言っていたが、この際だ。どうせなら、目一杯やってみるか!)
俺は右手をスクロールに掲げ、目を閉じてこれを高めることに集中する。
(…何か、周りがざわついてるな。まだ、集中力が足りないか…)
更に、意識を高めて集中する。
(魔力が、右手に集まっていくのが分かるな。だが…。もっとだ! もっと右手に、魔力を集中させろ!!!)
研ぎ澄まされていく俺の感覚に合わせて、魔力が右手に集中し始める。先程までの周囲のざわつきも、それに合わせて消滅していく。
(静かだ…。だが、強い力を感じる。いい感じだ~)
心地良さとも言える感覚の中、ざわつきが一切聞こえなくなる。そして、俺の右手には今にも暴走しそうなほどの魔力が集まる。
(こ、これが限界だ!)
俺は、最上の集中力の中で叫ぶ。(左手から金色の粒子が溢れ出している。)
「来い!!!」
【サモン!!!】
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