二人のリン
ー8月1日。
杏寿はどうしても避けられなかった数学の補講のために、今日からまた学校だ。
もし部活があったら、運動ができたらスカッとするのかしら。としみじみ思っている。
そういえば、忘れ居て居たが、私に近づいてくれるクラスメイト。
女の子。
鈴谷倫子。みんなリンリンと呼ぶけど、その子も一緒だって言っていた。
いい加減、心開いてみようかな。
こっそり、リンと呼んでいる。
教室には、用意したみたいにリンが一人で棒付き飴をくわえて佇んでいた。
先生だと思ったらしく、飴を口から出して丸い目でこちらを見た。
「あ!管月さんだ!早起きだねー。え、珍しくない?」
「うん、まあ。」
「どうしたの?なんでなんで?」
「今9時だし。そんなに……」
「あっ!そうか。早起きではないかー。」
リンはカバンにごそごそ手を入れながら、
「そういえば、まだ1時間あるよ。」
とつぶやいた。
「これから人が増えていくのか……」
誤算だった。人の多いところは、すぐ酔う。
杏寿の顔色をみて、しばらく考える顔をして、リンがこう言った。
「数学の補講だけでしょ?なら5人くらいしかいないよ。それ以降の補講は私予定ないし、どっかいかない?」
「ドッカ、いく。……」
宇宙人みたいな受け答えで、提案に乗った。今この瞬間は、この人といて大丈夫だと思った。
「ヨッケー!!行こ!行こ!」
リンがやったーとオッケーがぶつかった、おかしな言葉を発しながら、喜んだ。
「ねえ。でも、もうそろそろ人が来るかも。」
杏寿も窓に目をやると、三人くらいが歩いていて、半ば部活に来たのか補講か区別がつかない。
「ガララララ。」
「あ。」という男子生徒。
「あ。臨君。」杏寿は飄々と名前を読んだ。
「どうも。」臨太郎があいさつした。
「リ・ン???」
鈴谷は、、わけがわからないよ。という顔で杏寿を見ていた。
三人目の補講者は、駅で話したお友達、迎 臨太郎だった。