荒ぶる教室。
担任の先生が見た、5月の杏寿。
ー管月は、最初、物静かな少女という印象を持っていた。
教師となり、クラス担任を任されるようになって5年。
私が見てきた中で、そう珍しいタイプではなかった。
私の担当教科は国語なのだが、未だに、メインの国語教師の座は先輩の先生にある。
クラスを受け持つ業務もあるので、教えるクラスが少ないのは……それ自体は嫌でもない。
しかしながら、管月は、何を考えているのか分からないところがある。
成績はいい。
いつも心配になるほどふらふら歩いていて、誰ともつるまないと思えば、結構人望はあるようで。
男子からは気味悪がられているが、一部の女子生徒からは、悩み相談をうけて、その生徒から喜ばれていた。
きちんと受け答えもできるがしかし、急にスイッチが入って暴走することがあるのだ。
それは、5月、管月の苦手な英語が5限6限と続いた日の翌日だった。
珍しく朝いちばんに登校してきたかと思ったら、私のいる職員室からも聞こえる音で、黒板にチョークでカッカッカッと何かを書きなぐる音がした。
しょうがなく様子を見に行くと、教室は荒ぶっていた。
教卓はひっくり返され、窓は全開、扇風機も強で回され、クリーム色のカーテンがなびいておった。
そして、黒板にピンク字で、『I can't stand anymore!!!!』の言葉がうめつくされていたのだ。
「何してるんだ?」
少し語気を強めて彼女に言うと、いつもうつむいてよく見えなかった彼女の顔がよく見えた。
「スカッとしました。もう片付けておきますね」
そう言う姿が、『桜舞マスコットガール』のポスターの子のようだった。
桜の花びらを舞い散らせた並木道に、大きな帽子をかぶった少女が笑う。
頬の赤さは、桜色そのものだった。
春に、駅でよく掲載されているので、真っ先にそのイメージが浮かんだ。
何故だろう。
とにかく、片付けは私も手伝った。
ここで去ってしまったら、先生として違う気が来た。
だが、先ほどの管月杏寿の笑顔は すうっと消え去って。
いつもの沈んだ顔に戻ってしまった。