七月最後の学校。
今回は杏寿視点。
いつも杏寿は、学校に来るのが最後の方で、時に遅刻しそうになる。
体調をギリギリまで整えておきたくて、
「よし、なんとか行ける。」
と思ってから外を出ると早くは着けないし、自転車も、のんびりしか漕がない。
緑色のつるつるした廊下にはもう誰もいなくて、ホームルーム直前だった。
杏寿はこのアウェイ感がどうも苦手だけれど、やはり体調第一。
クラスは一階の真ん中あたり。
廊下と教室を隔てる窓付きの壁からは、杏寿のスカートが長いことは分からないから、特に誰も目を向けない。
ほかにも理由はあるのだろうけど。
高校の一年も半分が過ぎ、杏寿は自分がどう見られているのか理解してきた。
未だに仲良くしようと近づいてくる子たちが正直、杏寿には目障りというか、本当は嬉しいのだけれど、合わないと決めつけてしまう。
休み時間チャイムが鳴って、限界が来ると杏寿は髪をくしゃくしゃにして、背を曲げて、校舎から離れた日当たりのいい植え込みに座って光合成をする。
その姿を見つけるのは、大抵が移動教室が多い三年生で、そこから噂が広がり、「微動だにしない植え込みの妖怪がいる。」と言われるようになった。
さすがに一年にもその噂は広まってしまい、杏寿が休み時間に重たい空気から逃げていくこの行動は、興味や馬鹿にされる対象になった。
杏寿に興味を持つ人の一人に、とても素敵な人が居る。この子と仲良くなったら心強いこと間違いなしの。
「ねえ。」
と言われると、授業後の光合成ができないからという理由で、私はその場を去った。
最後にその子に話しかけてもらって三日過ぎた。
夏休み前の最終日。
杏寿は大きく深呼吸をして、よわよわしい力で教室の戸を開けた。