守り固めた終業式
「どうかな。この格好。」
そう言う杏寿のいで立ちは、いつもの制服姿とは違っていた。
「今日からこれで行こうと思ってるの。」
「どうしたの?そのスカート。」
「脚を出さないように。」
「お母さんにだけ、言っておきたかったんだ。今日からこれで行く。」
「え?どうして。大丈夫なの?」
くるぶしまであるロングスカートを杏寿は履いて、用意された朝食の席に着いた。
「ああーーーっ。ラクッ。」
どすんという擬音が適切な座り方で、木製のキッチンチェアに腰掛けて足をのばした。
杏寿は母の言葉には耳を貸さず、目玉焼きの目を箸で刺した。
「ちょっと。聞いているんだけど。答えなさい。それで学校に行ってもいいの?」
杏寿は震えるように深呼吸をしてから、目玉焼きをまるまる口に詰めた。
何も言わず、母を視界にいれないように自分の部屋に戻り、カバンをとって家を出た。
母は言葉が出なかった。
ゴクリ。
マンションの階段まで向かう中で目玉焼きを飲み込んだ。勿論に味わいは最悪だからつかつかと歩く。エレベーターに乗る気分にはならなかった。自分の足を使う手段が残されていて、とってもありがたい。
さて、階段を降りると駐輪場に赤い自転車が止めてある。学校へ行く手段は、自転車だけれど、時間がないと電車にも乗る。
どちらにせよ駅へ行くためにも自転車に乗ることにはなる。駅を通るまでに決めることだ。坂道を下ったところでコンビニに寄って朝食の続きを選んでいた。時計を見ると、もう7時半。あっという間に時間が過ぎてしまい、ホームルームに間に合うために、電車で行くことにした。
少しラッシュが過ぎていて、久しぶりに快適に乗ることができた。田舎のディーゼルバスなので、憧れの電車通学という響きは素直に使えず、心に違和感が残る。
ちなみに、パンは嫌い。息がしづらいから。後ろから首を絞められたらどうするの?
おにぎりと、昼食の一部の助六寿司を買った。足りなかったら購買で食べよう。
お弁当を作ってもらっている途中で家を出てしまった。こういうところはまだ頼らないと生きられない。
高校が終わったら少しはラクになるか知らん。
とにかく、私はこの若く、力有り余る大切な時期に、パワーを奪われたくなかった。
毎日不満ばかり垂れている人生を終わりにしようと、”抵抗”を始めようと決意した日なのだ。
そのためのロングスカート。そして実は腹巻きもしている。
今日は終業式だ。
せめてロングスカートデビューは夏休みからにすればよかったかな。
そう思いながら杏寿は、水を飲んだ。