第二節 大同集結
「よく言った! 俺はお前のようなことを言う奴を待ってたんだぜ!」
真っ先に返事をくれたのはアメリカ人主体、5位連盟「BIU(Born In the USA)」のリーダーであるハウンド・ドッグからであった。
ハウンド・ドッグは東海岸に住む白人のアメリカ人である。彼とヤマトタケルは周りから見てこれまで決して交わることのない関係だった。
彼はこの領域開始当初から、ヤマトタケルとワールドチャットでよく口論を重ねてきた。それは皆の周知の事実であった。
ヤマトタケルはふざけたワールドチャットへの投稿を酷く嫌っていた。いわゆる2チャンネルなどでの『荒らし』的な発言。それらはプレイヤーのゲーム参加の意欲を削ぐ少なからずの要因であった。
一方、ハウンドは好んで『荒らし』的発言でワールドチャットで自身や仲間の存在感を発揮してきた。それが彼の誇りであり、また彼が率いるメンバーたちが彼とこのゲームを共有する所以であった。
謂わば、ヤマトタケルとハウンドは水と油の関係だった。しかし、今回ヤマトタケルは彼を選んだ。
「私は、あなたが望むならば、あなたと行動を共にしよう。また、この面白い動きを早くメンバーに伝えたい。」
そう答えたのは、かつて中国やロシア連盟との戦闘を日本人連盟「JPN(Japan_next)」と今までともに戦ってきた隣国、多国籍連盟「PHX(Phoenix)」のリーダーであるプリバノンだった。「PHX」は今や6位連盟の地位を獲得している。
彼女はハウンド同様アメリカ人であるが、フランス人やスペイン人、インド人などが多く所属する多国籍連盟を率いていた。割合としてはヨーロピアンが多い。
ヤマトタケルは大同集結に大きな手応えを感じた。
翌日、さらにヤマトタケルを大きく後押しする連盟が大同集結に名乗りを上げた。4位連盟であり、1位の中国連盟とかつて数限りなく戦闘を繰り広げてきた韓国人連盟「KTT(Korean TOP Team)」からの協力表明であった。
ヤマトタケルにとって幸いだったのが、KTTのリーダーであるユーリーの妻が日本人であり、ユーリーが日本通であることだった。
また、ヤマトタケルはある確信を持っていた。『戦争ゲームにおいて、韓国人は日本人を裏切らない』と。
現実社会で色々と取り沙汰される日韓関係であるが、戦争ゲーム上ではお互いどうやら仲良しのようである。
「とても面白い提案だね。ぜひ君の話をもっと聞かせてくれ。」
そう返事をくれたのはトルコ人連盟「TC1(TurkeyOneTop)」のリーダー、アウトサイダー。TC1は現7位連盟である。
全てが出揃った。ヤマトタケルが打診した4つの連盟のリーダー全てが返信してくれたのだ。合計5つのこれらの連盟のプレイヤー総数は80名強となる。数字の上では中ロ連合と並んだ。
あとは、双方がどれだけ多くのアクティブプレイヤーを保有するか否か、だ。
『行ける! 大同集結、行けるぞ!』
ヤマトタケルはそう確信した。『我々は多くの同じタイムゾーンを共有し、かつワールドワイドに眠ることのないチームを形成することが出来るかもしれない!』
まさにこれは大国の中国とロシアを打ち砕くためのベストな集結なのだ、と。
彼は早速、結束を強固にするためにまずリーダーのみのSNSグループの立ち上げを各リーダー達に打診したのだった。
(注)「ワールドチャット」…この戦争ゲームに参加する全てのユーザーが会話することを許された、連盟チャット(連盟メンバーのみの会話の場所)以外の会話の場所のこと。この手のゲームユーザーには「ワルチャ」と呼ばれることも。