第八話 カラクリ
「なるほど、AI戦で勝負したのね」
「うん……。サシの勝負をしたんだ。山下と僕以外は全部AIのカスタム設定だよ。だけどそれと、戦神★3は関係有るの?」
「オートチェスはショップから駒を購入するでしょ? 実はこれ同じ山から分配されているんだよね。だからゲーム中の駒の総数はコストに応じて決まってるんだ」
朱美の説明通り、駒の総数はコストに応じて決まっており、全てのプレイヤーは共通の駒山から、ショップを経由して駒を購入することになる。駒山の内訳は次の通り。
1$駒 45体
2$駒 30体
3$駒 25体
4$駒 15体
5$駒 10体
「だからシナジーは、他のプレイヤーと被らない様に構成していくのがベストなんだ。だけどディヴァインメイジは、人気構成だからみんな集めたがる。だからなかなか集めきれないんだよね……。でも、AIはそこまで考えていない。手駒にある集めやすいシナジーを集めるんだ。つまりディヴァインメイジは競合せず、集めやすい」
「そっか、だからディヴァインメイジが完成出来たんだ!」
「そういうことね。でも一つ気になる駒が有るわ。氷河の祈祷師……」
朱美は『氷河の祈祷師』のアイコンをタップしてスキル詳細を改めて確認した。
「なんか変かな? 氷河の祈祷師のスキルは敵をペンギンに変身させるからね。ペンギンかわいくない?」
──んもー! そう言う蓮きゅんが可愛いよぉ!
朱美は蓮の答えに尊さを感じてしまい、思わず抱きしめてしまうところであったが、蓮の母が目の前にいる手前、ぐっと我慢した。
「その……、実はペンギンは今回は悪手だわ。相手はウィングス6シナジーを発動してる。ウィングスシナジーは通常攻撃のみを一定確率で避けるけど、それはペンギンになっても効果は変わらない。だから氷河の祈祷師ではない駒を入れるのが正解よ」
「え? 本当に? そんなことネットにも、まとめプリントにもなかったよ!」
「あはは。ゴメンゴメン。だから今回、そのプリントをさらにアップデートしておいたんだ。さあ大会に向けて練習しようか!」
朱美のまとめプリントは、これまではネット上記事をまとめたものに過ぎなかった。しかし大会出場を意識して独自調査の結果や独自知見も記述。これにより、かなりの情報量になっていた。
「あら、なにやら楽しそうね……。じゃあ朱美ちゃん蓮をよろしくね」
「はい! お母さん。もちろん宿題もきっちりしますね。蓮くん、早速、片付けるわよ」
「えぇ⁉︎ 今から〜?」
* * *
大会当日──
場所は幕張メッセ。
国際展示場ホール1・2・3をぶち抜いた、大規模会場だ。
会場に入ると「自走棋王戦」と毛筆で書かれた大きな看板が、来場者を出迎える。夏休み最後の日曜日。在るものは親子連れ、また在るものは完全に社会人であろう年齢の者まで、全国から大会会場に集まっていた。その数、約五千人。その殆どがオートチェスの大会参加者と言うから驚きだ。
この数を捌くには、効率的に大会を運営していかねばならない。チートなど不正が無いようにと十分注意を払った上で、各々の端末を使って予選が行われる。
試合は全部で4試合。たった4回勝てば優勝出来ると聞くと簡単な様だが、侮るなかれ。
オートチェスは8人バトルロイヤルだが次の試合に、勝ち進めるのはその中の1位のみだ。しかも、その1位のみが集まり、さらに8人バトルロイヤルを行い、それを繰り返す。そのため1回戦ごとに勝ち進む難易度が極端に上がるのだ。
初戦の参加人数は4096名。各々それぞれの端末から、所定の時間に、運営から案内されたルームIDを入力し、開設されたカスタムルームに入る。初戦を勝てば一気にトップ512位となる。
蓮は危なげなく2試合を勝ち進みトップ64まで駆け上がった。
「いやー。お疲れ、蓮くん。次、勝てばトップ8! 決勝戦だよ」
「うん。朱美姉ちゃんも勝ってるし、僕たちイケるんじゃない? 決勝まで」
朱美も順調に勝ち星を挙げていた。幸いにもブロックが違うため、朱美とは決勝までぶつからない。
「あはは、それはどうかなぁ。次から中国のトップ選手がシードとして入ってくるし、さらに厳しい戦いになりそうだよ」
本大会は、先に行われた中国大会のチャンピオンであるチーフェンをはじめ、ファイナリスト8名が招待される大会である。ファイナリスト達は日本大会の3回戦からシードとして参戦してくるレギュレーションとなっている。注目度の高い選手や強豪プレイヤーがシード参戦というのは、よくある試合方式だ。
そしてこの、注目度が高まるこの3回戦からネットでの中継放送が始まる。
「さてと。朝から連戦でお腹すいたね。次の試合まで時間あるし、ランチしよっか」
朱美は大きく伸びをして、蓮をランチに誘う。朱美は蓮の母に言われた以上に、蓮の面倒をよく見て、常に側に居てくれた。
会場にはコラボメニューを引っさげてフードコーナーが出展されていた。お昼時ともあって多くのプレイヤーが昼食をとり、座席は埋まり気味だ。なんとか席を確保して、二人は食事のメニューを見た。
『焔霊法師』を模した激辛カレー、『海賊王』海鮮丼なんかが人気のようだ。
飲み物にもコラボメニューが踊る。『マナの源』エナジードリンクや、『雷のスピリット』ブルーハワイ(ノンアル)、なんと言いってもにんきなのは、『不死の教皇』ハートストッパー・タピオカミルクティだ。どれもイベント補正で、少し値が張る価格設定であったが、『水のスピリット』ウォーターだけは給水所も兼ねて無料で飲めた。熱中症対策もバッチリという訳だ。
蓮は『不思議な卵』のロコモコを注文、朱美は海鮮丼だ。
「意外と美味しいね。コラボ物だと甘く見てたわ……」
「うん! うまい。これで次の試合も勝てそうだ」
蓮はパクパクとロコモコを頬張る。
「君かぁ、雀狂のカズを連れてるっていう? めっちゃ食ってて、ウケるw 名前教えてよ」
──⁉︎
「え?」
蓮は慌てて振り向いた。
後ろから不躾に話かけられたから……では無い。
雀狂のカズと言う名前に反応してしまったのだ。
そこに立っていたのは……『雷のスピリット』ブルーハワイを持つ少年。
「ぶほ! チ、チーフェン⁉︎」
朱美は『不死の教皇』ハートストッパー・タピオカミルクティを吹き出しそうになった。