第三話 ランクとシナジー
蓮は『リッパー』を盤面に出した。すると『ソウルブレイカー』と『ヘブンボンバー 』が共鳴し、きらりと輝くオーラを放つ。
──これがシナジー⁉︎
「よし! これで、ゴブリン3発動ね! ランダムな味方の駒1体の物理防御が12上昇し、HPが毎秒10回復する効果を得るわ!」
準備は出来た。
開戦の銅鑼が鳴る。
──今巡から對人戰。
ネットワーク越しに別のプレイヤーとリアルタイムで繋がって、お互いの駒を出し合う。ルール上それは必ず4巡目と決まっている。カズは蓮のプレイを数戦見て、ネットワーク対戦という概念を、何となく感じ取っていた。
銅鑼の音が止み、敵陣に駒が現れる。
見ると蓮とそっくりの駒並びがそこにあった。
──ふっ、人閒を相手にしてるんだ。考えることは同じか。
しかし、この巡は蓮の勝利となる。特に【ゴブリン】シナジーの恩恵を受けたであろう、『ソウルブレイカー★2』は相手から幾らダメージを受けても倒れない。対して敵陣には★2の駒は居なかった。圧勝である。
もしもこの戦闘に負けると、敵陣の駒の、能力に応じて自分のHPが減る。8人中、最後の1人が残るまで戦いが止む事はない。
そう──、これはゲームの皮を被ったバトルロイヤルなのだ。
「いいね。蓮くん! このまま勝って連勝を重ねよう!」
巡ごとにショップで駒の購入を進める。蓮は、【ゴブリン】シナジーを維持したまま、『ヘブンボンバー』を★2にランクアップし、連勝を重ねていった。
オートチェスには、金とレベルの概念がある。
金は、その名の通りショップで駒を購入するために利用する。駒にはそれぞれ価格が付いており、強い駒ほど高額だ。駒は購入だけでなく、購入価格と等価で売却することができる。
金は巡が終わると基礎額が給金される。1巡目〜4巡目までは、巡の数だけ、5巡目以降は5$の固定給金となる。ここからさらに金を増やすには、連勝するか連敗するかして、ボーナスを得る必要がある。或いは所持金が10$以上になると、巡の最初に10%の利子ボーナスを得ることができる。
簡単に言えば、金を使わず勝ち続けるか、負け続けることで金をより多く手に入れる事ができるのだ。
金はショップで駒を買う以外に、ショップの更新や経験値の取得にも使う事が出来る。ショップの更新とは、ショップの駒揃えが悪い時に、2$の支払いで駒を新たに引き直すことである。
強い駒を購入する以外にも、戦いを有利に進める方法がある。それは、盤面に自駒を相手より多く出陣させることだ。ここで重要になるのがレベルである。レベルは盤面に駒を出陣できる数に等しい。レベル1なら、盤面に1つ。レベル10なら、盤面に10体の駒を出陣させることができる。巡ごとに1ずつ増える経験値を一定値溜めることでレベルを上げることが出来る。良くあるRPGでは敵を倒すことで経験値を稼ぐ事ができるが、オートチェスではそれは無い。代わりに経験値を購入していくのだ。価格は5$で4ポイント。レベルアップはレベルごとに必要経験値が決まっている。
プレイヤーは駒を買うか、レベルを上げるか悩みつつ対戦を繰り返して行くのだ。
13巡目 蓮 レベル:6 順位:4位──
ショップに現れたのは『影の魔王』
「おや? 良いのが来たかも。蓮くん、ちょっと高め狙ってみようか。そのまま影の魔王を取ろう」
──動いたな。この女。
『影の魔王』は13巡まで、一度もショップに現れていない駒だった。にも関わらず積極的に取って行くには理由があるはずだと、カズは考えた。
──おそらく狙いは【ウォーロック】と【ゴブリン】のシナジーを持つアルケミストだ。しかし……。
カズは杞憂する。『アルケミスト』は4$駒である。オートチェスのショップに並ぶ駒はレベルによって陳列される確率が変化する。
カズは朱美の『まとめプリント』に目を落とし、書かれてあるレベルと確率の対応表を見比べ始めた。
今、蓮のレベルは6。その場合、ショップに4$駒が並ぶ確率は7%。そして4$駒は全部で10種、確率にして10分の1。つまり、蓮がショップから直接『アルケミスト』を引く確率は、たった0.7%だ。
──摑めるのか、蓮。……0.7%を!
カズの杞憂通り、『アルケミスト』はショップに現れない。その間ライバル達は順調に駒を買え揃える。蓮は敗北が続き、そのままずるずる順位が落ちてく。
──やはりダメなのか……⁉︎
17巡目 蓮 レベル:6 順位:5位──
「17ラウンド! ここで経験値を買って!」
朱美の指示通り、蓮は経験値を購入する。
5$を2回。合計10$。
経験値8ポンイント増。
蓮、レベルアップ。レベル:7
「17ラウンドは、10$で、ぴったりレベルアップ出来るタイミングなの。4の倍数+1のラウンドで経験値を買うのがベストタイミングよ。次、ショップを更新!」
すると、2回の更新で『アルケミスト』がショップに並ぶ。
「キター! 蓮くん! アルケミスト出陣よ! これで【ウォーロック】シナジーが発動! 味方の駒全員の通常攻撃とスキルダメージに10%の吸血効果(HP回復効果)が付与されるわ」
──そうか、ショップの更新直前にレベルを上げるのは正觧だ。
カズは朱美の指示に深みを見た。レベル7になれば4$駒が並ぶ確率を3ポイント上げて10%にすることができる。闇雲にショップを更新するよりも、アルケミストを引く確率を少しでも増やしたのだ。
「そして、ウォーロックシナジーが発動! ゴブリンの回復能力とウォーロックの吸血効果が同時に発動。これがゴブリンウォーロック!」
──それにしても……だ。やはり蓮は天運を持っている……。
たとえレベルを上げたとて、上がる確率は微々たるもの。アルケミストがショップに直接並ぶ確率は、1%である。
──それを蓮は……やってのけた!
朱美の狙い通り、さっきまでの負けが嘘のように、今度は連勝するようになる。
「これで行ける! あとはゴブリンを集めていこう!」
34巡目 蓮 レベル:9 順位:2位──
朱美の狙い通り、順調にゴブリンを集めた蓮。オートチェスに登場するゴブリンを6体を全て集めた、ゴブリン6、通称ゴブ6と言う構成である。発動したシナジーは【ゴブリン:6】【メカニック:4】【ウォーロック:2】
蓮はこの巡を勝ち残り、全ての敵を駆逐した。
「やったー! やっぱり強いね! ゴブ6は。蓮くん引きが良いよ!」
まるで仔犬をあやすように、朱美は蓮を特大の胸に埋もれさせ、ガシガシと頭を撫でて可愛がる。
「うぷぷっプハ! あ……ありがとう朱美姉ちゃん……」
カズは二人のイチャつきを意に介さず、顎に手を乗せ、考えに耽っていた
──そういうことか。
カズは蓮の操作するスマホの画面を思い出しながら、朱美の『まとめのプリント』を見つめていた。
──クラスアップが暗刻で、シナジーは役って訳だ。オートチェス……こりゃほぼ麻雀だな!
カズは次の戦いの準備をする蓮に話しかけた。
「おい蓮。次の壹局、俺に打たせろ!」