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第十二話 連敗戦術

「チーフェン選手、素早く手駒を変更。連敗から打って変わって、狼の群れを駆逐したぞ!」


 実況がえる。

 遂にチーフェンが仕掛けて来た。

 今まで『シャドウプリースト』だけで戦っていたが、盤面には『フロストナイト★2』『煉獄の騎士★2』『光羽の騎士★2』『羊の騎士』『ライトドラゴン』の姿。発動するシナジーは【ナイト:4】【デーモン:1】


「ココからは負けられないんでね! さあ蓮、一気に追い抜くぜ!」


 さらにチーフェンの手は止まらない。


 16巡目ラウンド──

 ラウンドに入るや否や、どんどんとショップを更新する。


「チーフェン選手のマリガンが始まった! 一気に手駒を揃えていくぞ!」


 因みに、実況が言うマリガンは引き直しという意味だ。オートチェス用語はその元となったDota2に由来するものが多いが、カードゲーム用語も、その相性の良さから使われる。


良好リィヤンハオ! 来たぞ!」


 チーフェンが取ったのは『ドラゴンナイト』

 1つレベルを上げて、チーフェンは『ドラゴンナイト』を出陣させる。次に手駒にあった『毒竜』と『羊の騎士』 を入れ替えた。


「あっという間に出来上がった、ナイト4ドラゴン構成! 起死回生の一手だ!」


『ライトドラゴン』『ドラゴンナイト』『毒竜』の3体で【ドラゴン:3】シナジーが発動する。このシナジーはバトルが始まった瞬間にMPが最大まで溜まり、即座にスキルを放つことができる。通常MPは敵にダメージを与えるか、もしくは攻撃を受けるかして、徐々に溜めなければならないが、これをすっ飛ばすことが出来る特殊なシナジーである。

 このシナジーと相性抜群なのが……否、このシナジーの為に作られたと言っても過言ではない駒が『ドラゴンナイト』なのだ。『ドラゴンナイト』のスキルは自身をドラゴンに変身させ、射程を2マス、攻撃力を100上げる。通常攻撃後、追加で毎秒10の魔法ダメージ与える──。という、強烈な駒だ。

 襲い来る敵駒を容易く退けるチーフェン。


「……伊達にチャンピオン張ってねぇな。ナイトシナジーとドラゴンシナジーの相性の良さは正に役滿やくまん! ナイト6までそだってしまうと手がつけられん」


(そうだね。ナイトシナジーが作るシールドは、魔法防御を75%、物理防御を30上げる。おっさん、ここはメイジシナジーを諦めて、アサシンシナジーを伸ばした方が良くない? ちょうど幻影の女王がショップにあるよ)


「いや、あくまで俺たちはディヴァインメイジを狙うんだ。芯を振らしちゃならねえぞ……、メイジの駒は諦めずに集めつづけるんだ! そのために購入する駒は……裏切りのデーモン!」


 26巡目ラウンド── レベル:8 (ゴールド):50 順位:1位 対人戦

 蓮は序盤の優位を利用して、うまく立ち回り、1位に立っていた。1位ともなると体力と金額に余裕が出てくる。

 オートチェスでは、50(ゴールド)以上を貯める必要はあまりない。というのも、ラウンド始めに給金される利子は上限が有るからだ。利子は、所持金の10%が支給されるが、それも5(ゴールド)まで。たとえ60(ゴールド)貯めようとも支給される利子は10%の6(ゴールド)ではなく、5(ゴールド)なのだ。

 蓮は、種銭として50(ゴールド)をキープしつつ、ラウンド開始時に入ってくる、基本給金、利子、連勝ボーナスのみで立ち回る。

 この50(ゴールド)を下回らない立ち回りは、2位以下の他のプレイヤーではなかなか出来ない立ち回りで有り、蓮はかなり優勢にゲーム進めている事を意味する。

 出陣駒には、

『戦神★2』『幻影の女王★2』『砂漠の主★2』『深海の歩行者★2』『致命の暗殺者★2』『影の魔王★2』『氷河の呪術師★2』『不死の教皇』

 ほとんどの駒が★2となっており、上場の仕上がりだが、逆に蓮は焦りを感じていた。かろうじて今は1位に立っているが、このまま逃げ切れるか疑問に感じていたのだ。特に『致命の暗殺者』は何かと変えたいと思っていた。


 この駒は単体で見ると悪くない。

 スキル、シャドウストライクは、通常攻撃が10%の確率で3倍ダメージが入る。【アサシン】シナジーと非常に相性が良いスキルを持っている。だが、シャドウストライクは、パッシブスキルなのだ。

 パッシブスキルとは、スキル発動にMPを利用せず、常に効果を発動しているスキルである。対してMPを使うスキルのことをアクティブスキルと言う。

 このパッシブスキルは【ディヴァイン】と相性が悪い。アクティブスキルを使ってこそ輝くのが【ディヴァイン】なのだ。


(おっさん。このままだと、近いうちに1位から降ろされるかも……。チーフェンの追い上げも凄い。なんとかしないと……)


「ああ、判ってる。だが動くにはまだ早い。機を見極めるんだ」


 そしてその時はすぐに来た。


「あーっと! ここで8位の選手が脱落したぞ!」


 オートチェスでは概ね40ラウンド前後で勝負がつく。そのため30ラウンド前後から脱落者が出始めるのだ。

 カズはこの機を見逃さない。


「今だ! 蓮、ショップをまわせ!」


(待ってました! よし、ショップを更新だ! うおおおお!)


 すると面白いように、メイジ駒が揃ってくる。手駒に大切に持っていた『ライトドラゴン』『マナの源』『雷のスピリット』は瞬く間に★2へクラスアップした。

 のみならず、戦神も★3へクラスアップ。

 実況もこれを見逃さない。


「ここで1位の蓮選手、戦神を★3へクラスアップだ! これは大きな一手となった!」


(おっさん。今まで、頑なにアサシンにこだわってたのに。どうしていきなりショップ更新したのさ?)


「それはな、脫落だつらくした8位選手の駒に答えがある。奴は俺たちと同じディヴァインメイジを狙っていた。そのため俺たちに必要な駒を集めていたんだ」


 プレイヤーが脱落すると、そのプレイヤーが持っていた駒は、再び駒(プール)に返される。つまり、今まで集めづらかった駒を集め直すことができるのだ。


「さあ、蓮。また長考しているぞ、今度は考える餘地よちはない。素早くアサシン駒を入れ替えて、ディヴァインメイジに變更へんこうするんだ」


 蓮はカズの言葉を受けて、素早く盤面を整理した。

『戦神★3』『ライトドラゴン★2』『マナの源★2』『雷のスピリット★2』『影の魔王★2』『氷河の呪術師★2』『裏切りのデーモン』『砂漠の主★2』

 出陣駒が出揃った。

 ディヴァインメイジ、完・成!


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