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第十一話 長考

(考え?)


「そうだ。ひとつ、メイジシナジーは保畄ほりゅうする。ふたつ、代わりにアサシンシナジーを集める。三つ、ウォーロックシナジーを利用する」


(どうしてそうなるの?)


 カズの理論に、蓮の思考は追いつかない。


「先ずいち。ディヴァインメイジは俺たちの他に狙っている奴がいる。そのため今こだわって狙っても、ツモれるかわからない。

 次に。アサシンも、ディヴァインと相性が良い。そして現在アサシンを狙っているのは今のところ壹名いちめいだけ。ってことはメイジよりも集め易いことになる。

 最後に三。ディヴァインとしんに相性が良いのはじつはウォーロックだ。メイジだろうが、アサシンだろうが、ウォーロックのシナジーは發動はつどうできる。兩對應りょうたいおうってわけだ」


(うん。なるほど理屈は理解できたよ。でもそれと、幻影の女王を購入するのに繋がる理由が?)


「大アリだろ‼︎ ディヴァインの特性をもう壹度いちどおさらいだ。ディヴァインは他の種族シナジーを發動はつどうすると、その效果こうかが消えてしまう」


(そう! だから、幻影の女王は相性が悪いはずだ。幻影の女王の持つ種族シナジーはデーモン。これは、盤面に出した途端、例え一体でも、デーモンが発動してディヴァインが消滅する!)


「そこでだ、影の魔王を利用する」


(え?)


「影の魔王も種族シナジーはデーモンだ。デーモンシナジーは種以上駒が重なると……どうなる?」


(デーモンシナジーは、無効化になる……ってことは)


「そう、ディヴァインシナジーが復活するんだ。しかも影の魔王はクラスシナジーがウォーロック。ディヴァインウォーロック構成にぴったりの駒だ」


(なるほど! すげーや、おっさん!)


「いや、感謝するなら朱美あけみだな」


(姉ちゃんが⁉︎)


「そうだ。アイツがまとめたかみにそれも書いてあった。……とは言えだ。まだ影の魔王はツモれてない。後はお前の引きにかかってる」


(そうだね……)


「よし、じゃあ、ちょっと早いが、ここでショップの更新をしてみよう。じつはレベル6〜9までが、確率的に最も3(ゴールド)コストの駒が出易い帶域だ。利子も考慮して、10ゴールド直前までショップを更新してみよう」


 幻影の女王を購入したため、蓮の所持金は19(ゴールド)

 あと4回ショップを更新できる。


(来い……来い……、3回、4回……ダメだ! 影の魔王が出てこない!)


「くぅ! お前ここで、天運をつかまねえでどうすんだ⁉︎」


(そんなこと言われたって……)



「おっと! チーフェン選手の盤面が異常だぞ⁉︎ 出陣している駒が、シャドウプリースト1駒のみだー!」


 突如、実況が叫ぶ。


(なんだって⁉︎)


 思わず映し出された大スクリーンを見た。


「蓮、驚いている場合じゃねえぞ! こっちも何か出せ‼︎」


「やッば!」


 タイムリミットが迫ってくる。

 持ち時間は……

 あと5秒!


「長考してる場合じゃない。なんでも良いから出すんだ‼︎」


 レベルを1つ上げたので盤面に1駒出す余裕がある。

 5秒以内に、何か駒を出さなければレベルの上げ損だ。


 カチ……、カチ……、

 カウントダウンの音が鳴る!


「まずい! え〜っと……、じゃあこれだ!」


 蓮は『赤き斧の王』を選択。


「あ、馬鹿埜郞(やろう)!」


「しまった!」


 時すでに遅し。

 バトルは無情にも始まり、蓮はあっさりと負けてしまう。


「ああ、連勝が……」


 蓮が出した駒、『赤き斧の王』は【ケーブ】と【ウォリアー】を持つ。この駒自体は弱くはない駒である。蓮は【ウォリアー】を伸ばす為、咄嗟に『赤き斧の王』を出陣させたのだ。

 しかし盤面には『剣聖』も出したままだ。『剣聖』も【ケーブ】と【ウォリアー】を持つ。【ケーブ】は2種の駒で発動する種族シナジーである。そのため【ディヴァイン】がき消されてしまったのだ。


(クソ……これなら、駒を出さなかった方がましだった。焦ったよ)


「過去にわれるな。持ちを切り替えるんだ。まだ1位のままだぞ!」


(うん、そうだね。確かにその通りだ! ありがとうおっさん!)


 同じ時、実況がチーフェンの状況を伝える声が届く。


「チーフェン選手、あっという間に第9ラウンドは敗北です。これは、わざと負けた様に見えました。連敗戦術とみて間違いないでしょう!」


(連敗戦術だって?)


「なるほどな。それでシャドウプリースト1駒だけだったわけか」


 オートチェスは(ゴールド)の管理が重要である。(ゴールド)は勝ち続けると獲得(ゴールド)を増やすことができるが、当然それは難しい。そのため連勝と同じ効果がある連敗を敢えて重ねる戦法がある。これが連敗戦術だ。

 だがこれは諸刃もろはの剣。ゴールドは確かに貯まるが、負けを重ねる分、HPがごっそり減る。これを軽減するのが『シャドウプリースト』のプリーストシナジーだ。

【プリースト】は、プレイヤーそのものの受けるダメージを20%軽減させる。そのため連敗戦術を取るにはうってつけの駒だ。


「氣にするな、蓮。自分を貫け。連敗戰術(せんじゅつ)している奴なんかごっそりとHPを減らしてやれば良いんだ」


 15巡目ラウンド── レベル:6 (ゴールド):39 順位:3位 対CPU

 蓮は、『戦神★2』『幻影の女王』『砂漠の主★2』『深海の歩行者』『影の魔王』『氷河の呪術師』を出陣させる。

 発動するシナジーは【ディヴァン:1】【アサシン:3】【ウォーロック:2】だ。

 9ラウンドでディヴァインメイジからディヴァインアサシンへと方向を転換した為再構築に手間取ったものの、なんとか上位3位に食い込むことが出来てる。

  

 さて、15ラウンドという数字は、オートチェスにおいて1つ意識していまう数字となる。この数字は後半戦の準備に取り掛かるラウンドなのだ。15ラウンドを越えてもなお、出陣駒の状況が悪い場合、その対局は非常に厳しいものとなる。

 また、オートチェスでは、10ラウンド以降5ラウンド毎に、対人戦の間にCPU戦を挟む。


 10ラウンドでは岩のゴーレム

 15ラウンドでは狼の群れ

 20ラウンドではデーモン熊

 ……と、50ラウンド迄続いていく


 中でも、15ラウンドの狼の群れは曲者くせもので、必ず奇襲として後衛を狙ってくる。その為、前衛と後衛を入れ替えてしっかり対策を練る必要がある。また群れを成して襲ってくるため出陣駒もそれなりに充実させていなければ狼の群れにやられてしまうことがある。15ラウンドでCPUにやられてしまうのは避けなければならない。というのも、オートチェスではCPUのみアイテムをドロップする事があるのだ。

 狼の群れは5匹登場するため、何かしらのアイテムをドロップする可能性が高い。ここでアイテムを取り逃がしてしまうと、後の戦いに影響してしまうのだ。


「うぉっとー! これまでプリースト1体しか出してなかった、チーフェン選手! ここで動き出す! 手駒から次々と駒を出して行く、この構成は……」


 特大スクリーンにチーフェンの画面が写し出される


「ナイト4……! しかしHPはわずかに20! ココから逆転の目は果たしてあるのか⁉︎」


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