第九話 棋凤VS蓮
「え? 蓮くん。チーフェンと知り合いだったの?」
ポカンとした表情で聞いてくる朱美。
「そんな馬鹿な。完全に初対面だよ!」
蓮は驚いた顔のまま、朱美に答える。
そして再び後ろを向き、チーフェンを見る。
「っていうか日本語喋れるの?」
「可以! 喋れるよ。ママが日本人なんだ。それより──」
チーフェンは、背後の何も無い空間を親指で指す。
まるで誰かがそこに居るかのような仕草だ。
「アキラさんがさ、しきりに『カズが居た。カズが居た』って言うんだ。最初は意味わかんなかったけどね。聴くと、アキラさんと同じ境遇の雀士だって言うじゃない。だから会いに来たんだけど……見えないんだね、お互いの雀士は。この人混みから君を探すの苦労したのにさ〜」
──こ、コイツ。隠してないのか⁉︎ 幽霊が見える事!
「てか、アキラさん。いざ近くに来たら全然喋らねーしw ウケるわ。機嫌わりーの?」
思わず蓮もカズを見るが、こっちも黙りだ。
──おっさんだって、あれだけ会いたがっていたじゃないか。
「ち、ちょっとチーフェン。場所変えていいかな?」
「お? おぅ別に俺は構わないけど」
「朱美姉ちゃんは、ちょっとここで待ってて!」
「う、うん。わかった……遠くに言っちゃダメだよ?」
──朱美姉ちゃんに変に思われたら、たまったもんじゃ無い! チーフェンはオープンかもしれないけど、僕は全然オープンじゃないぞ!
蓮は朱美をフードコードに置いて、チーフェンを会場の隅に連れ出した。
「僕の名前は、寺崎蓮。っていうか、困るよ。おっさん……じゃなくって……カズさんのことを喋ったり、アキラさんのことだってベラベラと」
「そう? 俺は全然平気だけどね? まあアキラさんのことは、誰も見えてないから、みんな俺のこと変な目で見るけどw」
「ほら! 僕はそうなりたく無いんだよ! だから、カズさんのことは、二人だけの内緒にしておいてよ! お願いだから」
「え〜なんだぁつまんないの。アキラさん以外の雀士に興味があったんだけどなぁ、ケド見えないんじゃ、興味半減だ」
「半減……って」
「でも興味が倍以上に膨らんだものもある。……君だよ、寺崎蓮」
「え? 僕?」
「对对。ここまで勝ち上がるって事は、何か特別な力が君に宿ってるって事。つまり圧倒的に自走棋《オートチェス 》が強いって訳よ。ここまで勝ち上がってるのが何よりの証拠だ」
──こいつ、俺たちについて何か知ってるのか?
カズはアキラを見るが、ツンとそっぽを向いている。
──チッ。相変わらず無愛想な奴だ。
「見たところ年齢が近いよね? 蓮、何歳?」
「12歳……」
「良好! やっぱ同い年じゃん! 俺の本名は杨浩然だ。よろしくな」
スッとチーフェンが握手を求めてきた。
「え? ああ、よろしく」
蓮もその手を握ろうするものの……。
「おっと」
チーフェンはすぐにその手を引っ込めた。
「いや、今はライバル同士。握手は決着が着いてからにしようぜw」
チーフェンは持っていたブルーハワイを飲む。
青色の液体に刺さる、赤いストローが妙に目立つ。
「え? あー、うん。それでも良いよ」
「楽しみだね、君がどんな力を持ってるか……」
「そんな……、僕に力なんて」
──蓮、自信を持て。お前は天運を摑む男だ。このガキになんて負けやしねえぞ……
声にこそ出さなかったが、カズは蓮の特異性を見出していた。
「じゃあな、蓮。また後で」
「え? また後でって……」
「なんだ、まだ知らないの? 次は俺達の試合だせ? じゃあな! 回头见!」
* * *
「さあ、注目の第3回戦。ここからはチャンピオン、チーフェン選手の登場だー‼︎」
威勢の良い声が、会場に響き渡った。
この大会は番組化され、動画配信サービスを通じて世界中に同時生中継されている。その動画配信番組を盛り上げてくれるのが、実況だ。
実況は、番組の視聴者や会場の観客へ、わかりやすく戦況を説明するのが主な役目となるが、聞こえてくるその声は、対局するプレイヤーたちの闘争心を掻き立てる。
そして選手はこれまでの試合と違い、ステージ上に設営されたプレイブースに案内される。1〜2回戦まではプレイヤーはどこで対戦しても(例え家からでも)問題なかったが、今試合からは、このプレイブースで対戦を行う事となる。
プレイヤー同士は自分の手駒が、他プレイヤーから見えない様に囲いで覆われており、プレイに集中出来る様になっていた。プレイブースはステージにハの字に配置されており、それぞれ四名ずつに分かれる。
蓮のブースからは、対面チーフェンの顔がよく見えた。
とはいえ、この慣れない環境には、多くのプレイヤーは落ち着かなくなってしまう。それに壇上の選手は、嫌でも観客の視線を集めてしまう。プロゲーマーでもない限り、プレイヤーにとってはこれもプレッシャーになるだろう。だが観客達は、これから始まるハイレベルな戦いの行く末が気になり、壇上から目が離せないのだ。
「なんだ、この五月蠅い掛け聲と、落ち着かねぇ環境は……! 氣になってしょうがねぇ」
麻雀上がりのカズに実況は合わないらしい。
そもそも麻雀をやっている最中に、ベラベラと自分の手配を実況されたんでは勝負にならない。その為対局中は基本的には喋らず、黙々と打つのがマナーである。
(おっさん実況、知らないの? 僕は自分のプレイに実況が乗るなんて、プロゲーマーみたいでなんかワクワクしてくるよ!)
するとステージ中央にある大スクリーンに自分の顔がカメラで抜かれ、ドアップで映し出された!
──うわ。自分顔がモニターに映ると恥ずかしな〜‼︎ おっさんの言うことも、わかるわ。
「それでは棋士の皆様、準備よろしいですか? 第1試合スタートです!」
1巡目── レベル:1 $:1 対CPU
ショップに巡ってきたのは、『戦神』それも一気に2体だ。
(おっさん……、イキナリ戦神がきたよ! これって……!)
「ああ、狙うしかない……。ディヴァインメイジだ!」




