スピンオフ~ヨルム様の見ていない世界~4
この作品は「ヨルム様の独り言日記」のスピンオフです。
本編はこちら
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本編が殺伐としているので、この世界のヨルムと主人公であるアルファズルが見ていない世界をお楽しみください。
勇者とは、
聖導貴族である三賢者に仕える者の中から特に勇敢で勇猛、そして義勇に優れた者が自ら名乗る称号である。
そして、ここに1人、その勇者がいた。
「くそ、やられたー」
「両者!!そこまでである!!!決着はついた!!!此度は素晴らしき闘いであった!!!勇敢に戦った戦士達の健闘を称えよ」
うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!
ここは一言でいえば闘技場である。街の中心にあるこの闘技場は戦車の勇者である
ケアノスの領地の主要な施設であり、同時に彼個人の所有物でもある。
その為、彼主催の闘技大会が月に4回程常に行われているのである。
そんな彼だが闘技大会の閉会式を執り行い、自慢の戦車の手入れをしていた。が、何やらその表情は
どこか不満げに曇っていた。
「勇者様、いかがなされましたか?」
「応、アラスか。いや何、ちょっと思うところがあってな」
「此度の闘技大会がですか?皆、素晴らしい闘いでしたし、民衆も盛り上がっていたと思いましたが」
「いや、そうではない。確かにどの戦士達も立派に、勇敢にその闘いを披露してくれた。私闘を禁止して以来この闘技大会を開いたはみたが、結果皆の良い息抜きなったようで我も喜ばしい。だが、」
「だが?」
「我の戦車の出番が少なすぎる!」
「はい?」
「欲を言えば我自身も闘技大会に出たい!!が、それは流石に欲張り過ぎというもの。だがせめてもう少しこの戦車での出番が増やせないものか」
「はあ。今日はそれで開会式の際に闘技場を3周もしたんですか?しかも魔導具も発動なされて?」
「無論よ!!我の我が儘に民衆を退屈させるわけにもいくまい?少しばかり慣らしも含めてだがなガハハハハハハハハッ!!!!!」
「ではいっその事、戦車を用いた催しを行う、というのはいかがでしょう。凱旋時だけでなく、祝い事やなんなら開会式は門から始め、闘技場に辿りつくまでに変えてみては?」
「そうではないそうでは。それに我は凱旋の雰囲気は好むが、如何せんあのゆっくりとした行進は苦手でな、なにかこう、駆け出したくなる」
「なるほど。つまり活躍をお望み、と。しかし、この治安の良い街において勇者様が活躍される程の珍事、もしくは事件等そうそう起きるはずもないですからね」
「いや?そうとも限らんぞ?例えばだ、」
「例えば?」
「きゃああああああああああ!闘技場から巨大な猪が飛び出てきたわー!」
「なんてこった!逃げろ逃げろ!」
「きっと宴用に飼育されて猪が逃げ出し巨大化したに違いない!危険だから誰も近づくなー!」
「何!!こうしておられん!!!我の出番だな!!!」
勇者ケアノスは颯爽と戦車に乗り込み、愛馬2頭の手綱を握る。
「サイデーレンス!!!ジーゴアイ!!!我が愛馬よ!!暴れる巨猪を捕らえるぞ!!!」
戦車を繰り出し闘技場の外へ出る。見ればその巨大な猪は次々に街を破壊し走り暴れているではないか!
「そおれ!!!走れ!!!」
2頭の馬が曳く戦車が走り出す。すぐに巨猪に追いつくが、その巨大さたるや。
馬2頭も通常の馬に比べればかなり巨大だが、巨猪はそれに劣らず、いやその大きさをわずかに超えている。
巨猪は戦車に気づいたのか逃げ出すように方向を変えた。
「なるほど!!!我と走り比べるというのか!!!面白い!!!!!行くぞ!!!」
戦車は瞬く間に巨猪に追いつき並走する。
巨猪は何やら驚愕したようにふがふが言っているが分からない。その間にもケアノスは、
「とう!!!!」
と、戦車から跳び、なんと巨猪に跨った。そして牙をむんずと掴み、身を翻しそのまま巨猪の前に立
ちはだかった。
牙を掴み、抑えるケアノス。が、巨猪の勢いは落ちても止まらない。このままでは壁に衝突し、ケア
ノスは巨猪に押しつぶされてしまうだろう。
そして、
巨猪の動きが止まった。ほぼほぼ壁の手前であり、ケアノスの背と壁の隙間はほんのわずかでった。
しかし、巨猪を観念したのかおとなしくなり、
「そして皆は我を称えその日の宴に巨猪を振舞うのであった!!!良い!!見事な活躍である!!!誰か詩人をここへ!!!今日は今の話を語らせながら宴である!!!!!」
「確かに今日の宴は猪が出ますが妄想が過ぎるのでは?というよりどこから出てきたのですその巨猪は。いませんよそんな猪」
「つまらん奴だなアラスよ?男であれば!!勇者となった男であればこれくらい活躍をしなければその名が廃るというもの!!!まあ確かにその様な事は起こらんがな」
「ですね。飼葉は従者達に用意させますので執務にお戻りください」
「やはりか?」
「やはりです。せめて宴までには終わらせてくださいよ」
「やれやれ」
はあ、とケアノスはわざとらしくため息をつき、戦車の側を離れるのであった。
何か、血沸き肉躍るそのような出来事は起こらないものか。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
この話は本編で登場予定のキャラのサブストーリー的な?ものです。
本編で出てきたときになんとなく思い出していただければ。
では。