市民憩いの森公園
タローは文字通り、完全に頭を抱えていた。
もちろん愛するカリンの手前、露骨に落ち込んでいるわけにはいかない。とはいえ、次々と牙をむく災難に、さすがに疲れ果てていた二人は、銀行の隣にある小さな公園のベンチに座っていた。
タローはうつむいて頭を抱え、カリンは静かに空を見上げている。
この街を覆う、透明なドームの向こう側に張られたスクリーンには、青い空が投影され、擬似的な昼間を街に提供していた。広大なドーム状の街自体が、宇宙船として虚空を彷徨っているのだ。
数十隻の様々な船が船団を形成している。
そのうちの一隻の中で、タローは絶望の淵に追い詰められ、転落を迫られている。本来であれば、今頃二人は入籍を済ませ、受け取った満期のお金で、中古とはいえ船を購入する契約を結んで、祝杯を挙げているはずだった。
それが、最初の躓きがすべてにつながり、なにもかもがうまくいかない状況だった。
まるで、世間が、世界のすべてが敵に回ったような心持ちだった。
ふと、タローがため息をつきながら顔を上げると、カリンの姿が消えていた。慌てて立ち上がるタローの頬に、暖かいものが押しつけられた。振り向くと、背後にカリンが缶コーヒーを持って立っていた。
「まあ、落ち着こうよ」カリンは言った。「頭を抱えたって仕方がないよ。別に私たち二人が離ればなれにされたわけじゃないもの。そりゃ、船団に公式に認めては欲しいけれど……」
妙に振り切れたような、さっぱりとした表情のカリンを見て、タローは一瞬だけ訝しそうにしたが、すぐに頭を振って破顔した。
「そうだな。落ち込んだからといって入籍できるわけでもないし。それより、先を考える方が大事だな」
「そうよ。とにかく動かないと。考えるのは動きながらでもできるじゃない。考えなしはダメだけど、考えてるだけじゃもっとダメだと思うわ」
「よし、とにかく顔を上げようか」
タローはコーヒーを受け取ると、フタを開けた。缶コーヒーは、旧時代から含めて数百年以上、大して変わっていない商品だ。それだけ完成されていたといえるのだろう。
人間は些細なことで落ち込むが、立ち直るときも、小さなきっかけでがらりと変わるものだとタローは思う。自分にとってはそのきっかけをくれる人が、すぐ側に、しかも、ずっといてくれるというのは心強いものだ。それも、きっと缶コーヒーと同じく、いや、それ以上に昔から完成されている事実というやつだろう。
「カリン……ありがとう。正直君がこんなに強いとは思わなかった」
「そんなことない。本当は私だってどうしたらいいかわからないもの」
カリンは自分のコーヒーに口を付けてから言った。
「たぶんね、一人だったら、もう、あきらめてると思う。でも、一人じゃないからね」
「……そうだな……辛いときも二人で分かち合います……って、宣誓があったね」
「そうそう」
カリンから笑みがこぼれる。タローは再びベンチに腰を下ろした。
「とりあえず、支払いに行こう。待ってもらえるか交渉して、ダメならまた考えよう。歩きながら……」
カリンはタローの言葉に大きく頷いた。