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時間違いの恋人  作者: 春成 源貴
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生活相談課相談係受付 2

「我が第十八次移民船団は、オットーさまのお生まれになった第十二次移民船団よりも時間が早く進んで……」

「だから、それがどうしたっていうんですか?」


 突然カリンが声を荒げていった。言葉を遮られたグリムは口をつぐんだ。穏やかな笑みが消え、真顔になるがそこには何も表情は読み取れなかった。


「わたしはずっと生きてきて、今こうしてここにいるんですよ?二十六年、生きてきてるんですよ!」

「……いや、ですから市民籍上のお話で……」

「思い出だってあります!わたしのどこが子供に見えるんですか?」

「そうですよ。彼女が子供に見えますか?」


 タローも勢いに呑まれて声を大きくした。カリンに至っては椅子から腰を浮かして拳を握っている。


「まあまあ、落ち着いてください。それはわかってますから。順序立ててお話をしているんです。誠に申し訳ありませんが、ひとつ落ち着いてください」


 グリムは眉をひそめて、困ったように両手を振ってカリンをなだめる。カリンは押されでもしたかのように、突然脱力すると再び腰を下ろした。タローは彼女の横顔をのぞき込んでから、背もたれにもたれ込んだ。


「……わかりました。とりあえず続きを……」


 カリンはそう言って、静かに息を吐き出し、グリムが指し示すコップを手に取って。暖められた濃い琥珀の液体を口に含んだ。


「……恐れ入ります。ええと、そうそう、時間の流れの話でした。我が第十八次移民船団は三十二年前に現在の星系に到着してから、速度を落として移住可能な星の探索をしながら移動しています。比べて、以前オットーさまがお住まいだった第十二次移民船団は、現在、隣接した星系間の星の少ない空間を亜光速に近い、かなりの早さで移動しています。我々が島の中をゆっくり探索しているとすれば、彼の船団は島と島との海を真っ直ぐ渡っているようなものですね。といっても本物の海を見たことはございませんが」


 今度は、グリムは本当に肩をすくめた。


「我が船団よりも随分速く動いています。現在の速さで移動を開始して……こちらも三十年間ほどになろうかというところですね」


 グリムがパソコンで何かを操作しながら言った。


「現在の各船団の運行記録を確認してますから、まあ、間違いのないところです」

「それで?」


 タローは胸の前に腕を組むと、憮然としたまま続きを促した。



「はい、今申し上げた三十年というのは、我が船団の時間です。言ってしまえば、あそこに掛かっている役所の壁時計の針で計った時間です」


 そう言って、グリムは手のひらを上に向け、入口の脇に掛かっている大きなアナログ時計を指し示した。正確なリズムで細い秒針が文字盤の上を踊り続けている。


「先ほどご説明した、時間の流れの違いを思い出していただきたいのですが、我々の船団よりも速く移動している、彼の船団の時間の流れは反対にゆっくりとなっています。お役所仕事とよく言われますが……」


 グリムは苦い笑みを浮かべる。


「第八次以降の船団は同じ規格、同じ法規の下に設計、製造、運営されていますから、おそらくあちらにも市役所の出張所があって、入口の脇に同じ時計が掛かっているでしょう。製造から随分経ってますが高品質ですからね……そしてその時計は、もし、我々がここから望遠鏡で眺めることが叶うならば、随分とゆっくり、気長に動いているのが見えるでしょうね。船団の中に入ってしまえば、我々にも同じ速さに見えるんですが……ここまではご理解いただけました?」

「……頭が悪くて申し訳ないね」


 多分に皮肉のこもった声でタローが答える。


「勘弁してくださいよ。別にわたしは、あなた方の敵でも何でもないんですよ?今は事態を打開するために、現状を整理しているだけなんですから」

「それで、どういうことなんです?」やはりイライラの募った声でカリンが訊ねた。

「詳しい年数とか理屈がどうとかはともかく、船団で時間の流れが違うことくらい子供だって理解してます」

「そうですよね。失礼しました」


 グリムは困った顔をしながらも素直に詫びた。


「ですが……」と続ける。

「……これからのご説明を正確にご理解いただくためにも……」

「……いいから……続けてください。とにかく、先に進みましょう」


 タローが疲れたような声で言った。グリムはカリンの顔に視線を向け、彼女が肩をすくめるのを認めてから、言葉を続けた。

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