夜行性の眠り姫
「誰か訪ねてきたら教えてよ。その時は寝たふりするから」
「うん。分かった」
ずっとベッドに横になっていたら気が狂っちゃう。
そもそも寝ることは無理やり頑張ってすることじゃない。
日中は誰かが来るかもしんないから外には出らんないし。
退屈だけど話題になっちゃってるしやめらんない。
ヘッドホンをつけて爆音で音楽を鳴らす。
もう現実は何も聞こえない。
人が来ていないときくらい現実逃避したいもの。
してるヘッドホンには爆音が流れてるし、この部屋はチャイムがめっちゃ聞こえにくいし、来客は知らせてくんないと困る。
準備というものは重要だし。
パパには私に来客を知らせる義務がある。
全部パパが計画したものだから。
あの日は三日くらい目覚めなかった。
揺すっても大声で呼んでも。
それでニュースになり私は有名になった。
でも、あの日はたまたま三日ほど目覚めなかっただけ。
ニュースになった翌日くらいにはもうパッチリ。
そりゃ起きるよ。
三日が限度でしょ。
五時間睡眠が平均の女子だからそんな長く寝てられないよ。
三日寝てたってこと自分でも信じられなかったもん。
普通の親って私が起きたらみんなに「起きました」って言うのが普通でしょ。
でも、パパは違った。
パパは眠り姫に仕立て上げて金儲けしようって。
そう言われたから協力しただけなんだけど。
「夜は誰も来ないから変装して出掛けてもいい?」
「うん。いいよ」
ずっと家にいるだけで気が狂っちゃう。
夜に寝てる私を見ても「普通に寝てるな」くらいにしか思わない。
だから夜に訪ねてくる客なんていない。
日中は暑いし明るいし誰が来るか分かんないし出掛けられない。
でも夜なら目立たずに思う存分はっちゃけられる。
変装さえすれば、どんな遊びもオッケーって感じ。
今日はいつも以上にストレスが溜まったし、朝まで飲むとするか。
「この女性が眠り姫ですか?」
「はい。そうです」
「お美しい。人間本来の美が溢れ出てますね」
朝に訪ねて来た紳士は眠り姫の寝相に目を奪われた。
耳を突き抜くほどのイビキを放ち、蛇のような身体の柔らかさでベッドに眠っている。
ベッドから今にも落ちそうだが、とても気持ち良さそうに。
夜遊びをしすぎた後の眠り姫に、寝たふりをする必要なんて全くない。