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73→クリア

作者: わーど

あるところに戦争の武器を作る工場がありました。

ある時は大砲を作り、またある時は剣を作ります。

工場は大忙しです。どんなに作っても、いくら作っても足りないのです。


毎日毎日せっせと作ります。毎日毎日たくさん作ります。


ある日、他の工場が、より優れた武器を作ってしまいました。

困りました。武器しか作った事がないので、工場が潰れてしまいます!


工場の人は考えました。たくさんたくさん考えました。

そしてひらめいたのです!



「武器と兵士をセットで売ろう!」



名案です!

武器と、それを使える人間のセット!

ああ!なんて素敵なんでしょう!武器を買えば訓練いらずですぐに兵士が手に入るなんて!



そうと決まれば善は急げです。

工場の人はさっそく近くの村から子供をさらってきました。

子供はか弱いのですぐに手に入ります。嫌がっても力づくで連れてきます。


男の子78人、女の子22人、合わせて100人さらってきたところで一区切り。

大人は戦争に夢中で気にも留めません。


さっそく訓練の開始です。

100人の子供に1から100まで番号をつけて管理しやすくします。


子供は覚えがいいからすぐに武器の使い方くらい覚えられる筈です。


でもここで問題発生です。

泣くわ喚くわ!


やれ、お母さんに会いたい!


やれ、お腹空いた!


やれ、お家に帰して!



わがまま放題で困ってしまいます!

工場の人は見せしめにと近くにいた55番の頭を剣で切り落としました。

噴水のような血しぶきとともに55番が倒れます。



「おとなしく従わないと、お前らもこうなるぞ」



成功です。子供達は言うことを聞くようになりました。

ただ55番とつけられた男の子は死んでしまいましたので、1人減ってしまいました。

次からは死なないようにしないといけません。



子供達は毎日毎日殴られ、蹴られ、武器の使い方を覚えさせられます。

泣けば罵声とともに殴る蹴る、反発などしようものなら吊るし上げられて棒で叩かれます。




最初は泣いたり怒ったりしていた子供たちですが、




武器の扱いが下手で、暴力を振るわれて命を落としたり、

夜な夜な誰かが工場の人に連れていかれて乱暴されたり、

粗雑な食事さえも喉を通らずに、少しずつ人数が減っていったり、


そんなことが続いていって、ついには泣くことも笑うことも怖がることもなくなっていきました。




そのころには100人いた子供たちは、32まで数を減らしていました。




でも平気です!残った男の子28、女の子4!

大人顔負け、戦闘の達人として立派な商品として完成したのです!




言葉を忘れてしまったり、



片腕が無かったり、



倫理感が壊れてしまっていたり、





個体個体で多少の不具合はありますが、武器としての品質は問題ありません!


さあ自慢の商品を出荷する時です!

これでお金を稼いでもっともっと商品を作るのです!




意気揚々と狂った笑顔で狂った商品を売る算段をしていた工場の人たち。



その日、大火事が起きました。

誰かが火を放ったのです。


工場はそのほとんどが焼け落ちました。


55番を殺した人も

夜な夜な子供に乱暴していた人も

子供をさらってきた人も


みんな死んでしまいました。



でも子供たちの何人かは生きていました。

商品として、生き残る術を叩き込まれていたからです。




ある者はとっさに工場から逃げだし、


ある者は工場の人間を盾に使い、


ある者はたまたま火から逃れて生き永らえました。




生き残った数人は、話合いをすることもなく感情を失った頭で考えました。

工場は燃えてしまったし、これからどうしようか?




とりあえず自分たち以外に何人か工場の大人が生きていたので、殺しました。

敵は弱っているときに殺せと教えられていたので、その通りにしました。

中には抵抗するものもいましたが、寝ても覚めても戦闘技術を叩き込まれた、覚えのいい子供達の敵ではありません。


これから、どこか壊れてしまったこの子供たちはどうなるのでしょうか?


これは73番とつけられた子供のお話です。

73と番号付けされた少年は、剣を片手に雨の中を走っていた。


視界が悪い。どこに敵がいて誰が味方か分からない。手を伸ばした先すら見えない土砂降りの中、

73は戦場で戦っていた。


工場が燃えたあの日、73は混乱に乗じて逃げ出していた。

呼び止める怒鳴り声や、火にまかれる大人を視界から外し、追ってきた工場の人間を殺して逃げて、逃げて、逃げた。


他の子ども達がどうなったのかわからなかったが、73は逃げ出した。




とうの昔に感情なんてモノはなくなっている筈だった。


だが、自分が死ぬと実感したとき、わずかに


死にたくない と、思ったのだ。



恐怖でも、怒りでもない。自分でもよくわからない感情を抱えたまま工場を逃げ出して、

工場から遠く離れてた時にはその感情は消えていた。

いや、何も感じない、元の73に戻っていたというべきか。

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