暇つぶし
枯れたタンポポを見ていた。雪に沈むカニの死体に釘付けになっていた人々が帰ってきた。夏祭りが終わるころに毎年恒例の行事だ。浮かべた微笑みを見て母は笑った。この声が届くのはあと何年だろうか。考え出したら止まらない午後の恐怖に嬉々とした態度で迎えるのはゴキブリの泥沼と涙が止まらなくなったひばりだけだ。中身を逆さまにしたバスケットを見て心なしか寂しげな表情で南瓜を眺める半袖短パンの少年がいた。彼もまたこの風の犠牲者なのだろう。波打ち際から聞こえる崖を削る狼の遠吠えに怯えていた私たちのことをさらに向こう側の陸に住む彼らには関係のないことなのだろう。別れの便りは送ってはこないがいらなくなった者たちの残骸だけはいつも溜まっていた。この島で暮らすには少しコツがいる。尖った木の破片に紛れて流れ着いた場所だということは分かる。しかし、それ以外は何も知らなかった。異邦人として冷たい風の中暮らしてきたがそれもそろそろ限界だと丸みを帯びたそいつが囁いてくる。頬を撫でるのは風だけでいいと思った。危機感が足りないと頭に頭巾をつけた嫌われ者が寄越した果物には毒が仕込まれていた。彼らにとっては薬らしい。しかし、私の文化には合わないようだ。ぷかぷかと浮かぶ腹を向けている魚に蔑みの目で石を投げる。裸足で駆けていく白いワンピースの少女の後ろを若い男が笑いながらついていく。汚いと感じることもなく嘆きで踊る私の姿を遠くから描く若い女。あのキャンパスにはどう描かれているのだろうか。きっと想像で終わる。虚しさを抱えるくらいなら鼻から考えないことだ。平凡なまま途絶えると思っていたこの人生でもこんなことが起こるものかと世の奇妙さに面白さを見出していた。感覚的に笑えるかと思えばそうなる世の中はかけたメガネの色によって決まる。赤の眼鏡をかければ赤い。青の眼鏡をかければ青い。景色に飽きたなら変えればいいだけの単純な話だ。それが分からないのが私の元いた世界の常識だった。そもそも自分のかけている眼鏡の色すら把握できていないのだから変え方が分かるはずがない。酷く愚かなことだ。あの日嘲笑っていた彼は元気だろうか。きっとあいつは今の私の心配などしていないだろう。訳の分からない嵐に巻き込まれたこの体の安否を気にすらとめず今の今も笑って過ごしているだろう。私も眼鏡をかけかえたのだ。今はあいつの姿が亡霊のように見えなくなっている。喜びを迎えていいのか悲しみに溺れた方が良いのか、それは個人に任せるとしよう。きっと私もあいつのことも覚えてはいないだろう。バスケットを持ち上げた少年は南瓜を叩き割り中身を貪り始めた。元気な奴だなと呑気に構えていると目の前に魚がかかった。満足顔の私はそいつを捕らえた。




