龍の耳にて4
最初の夏至の試験で、闇子と蓬は揃って中級初位に上った。これは塔主の権で初級中位と上位の試験を抜かさせたもので、失敗すれば塔主の権威を失墜させかねないものだったが、アマリエはあえて強行した。二人を、特に闇子を「塔の一番下っ端」から脱出させたかったからだ。
中級初位なら他にも何人もいる。なんといっても中級上位で塔主が務まった程度の塔なのだ。
思った通り、使える術の範囲が広がるほど、闇子の申し子としての能力は発揮されるようになった。
薬草園の能率はさらに上がり、術を組み合わせて畑ごとの細やかな管理を行えるようにもなった。
さらに薬草を加工して貯蔵するためにも術を活用する方法を研究もした。
乾燥やふるい分けなどの貯蔵のための加工には、蓬が意欲的だった。
薬草園のためになら闇子は驚くほどに斬新な術の活用を見せた。
次の冬至の試験で闇子が、更に次の夏至の試験で蓬が中級中位に上った。
そうなると他の連中の見る目も変わってくる。
中級初位、中位の中からも、「薬草園の授業」に興味を示す者があらわれた。アマリエは参加を希望する者の事は基本的に受け入れた。塔主として導かねばならないのは、闇子や蓬だけではない。更に次の冬至や夏至には、何人かが上の階位に進み、更に次の冬至には、ついに闇子が中級上位に進んだ。
明子の事は気になっていた。
むしろ今となっては一番の気がかりだ。
明子と彼女を中心とする数人は、頑なにアマリエを拒んだ。なまじ表面上は慇懃なだけに手の出しようが難しく、いつの間にか後回しになってどんどんこじれてしまった感じがする。薬草園の授業の参加者が増えるに従って、塔の実権はアマリエに移り、明子のグループは塔の中で少しづつ孤立していった。
後になって、アマリエはこの頃の事を苦い気持ちで思い出すことになる。
塔はアマリエと薬草園を中心に回り始めていた。
その中で明子のグループの孤立を、アマリエは軽く見ていた。実はほんの少し、溜飲の下がるような気持ちもあった。長年姉妹でありながら闇子を貶めてきた明子に、アマリエは好意的な気持ちを持てなかった。
薬草園が充実し、研究が活発になったことで、地域における塔の存在感も大きくなった。
それは明子達がいっそう孤立していくということでもあった。