龍の耳にて3
取っ掛かりを掴んだのは、薬草園での事だ。
この塔の薬草園は相当に見事なもので、山の斜面に作られた段々畑に、高さや土の質に合わせた薬草が植え付けられている。闇子はほとんど一人でこの薬草園の世話をしていて、それがまた、アマリエの指導を受けたがらない理由にもなっていた。世話のための時間が取られるのを嫌がるのだ。
薬草園にはアマリエも興味があった。
実は薬草の種も多数持参している。
それで、植え付けの相談がてら薬草園の世話を手伝ってみたのだが驚いた。闇子の申し子としての能力は見事に活かされていたからだ。
無数の畑にはさらに多くの連動魔法陣が仕掛けられ、水やりなどはかなり効率よく行える。虫よけの結界や、風よけの結界も同じように使えるので、他のもっと細やかなせわのいる部分に時間を使える。
荷物を運ぶのにも連動魔法陣を用いた仕組みが使われていて、抱えて運ぶような必要はない。
「アズライアさまがこの魔法陣を授けてくださったおかげで、一人で世話ができるようになりました。本当に助かっております。」
アジャ(=アズライア)が連動魔法陣を教えるまでは、専属で世話をする闇子の他に、当番制で手伝いが入ったらしいのだが、格下の闇子のやり方に合わせてくれる者は少なく、大変だったらしい。
闇子にとってこの薬草園こそが、生きがいともいえるものなのだ。
そういう事ならと、新しい畑に持参の種を蒔いたのを口実に、アマリエは薬草園の世話に携わるようになった。闇子の世話のやり方を尊重し、積極的に学ぶ姿勢を見せると、闇子も幾分親しんでくる。ある程度馴染んでから、少しづつ薬草園の世話に役立つ形で術を教えた。薬草園のための新しい技術としての魔術ならば闇子は驚くほど意欲的に覚えた。
ついでに蓬も巻き込み、薬草園を教室にアマリエは二人に中級資格取得のための魔術を教え込んでいった。