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龍の耳にて2

 友好国といってもそれは国どうしの話であり、アジャが親しい宮達のいる神威は、龍の耳からは遠い。

 世界で唯一上級魔術師の所属しない龍の耳の塔は、かなり排他的な塔だった。暫定的に塔主を勤めていた中年の中級上位魔術師の明子は、単に真面目というよりは頑なな印象の女性だった。

 上級魔術師であるアマリエになんの抵抗もなく塔主の座は明け渡したが、決して歓迎されていないことはありありとわかる。

 その明子(あきらこ)の妹闇子(くらこ)が、アジャに頼まれた申し子だ。年齢で言えば二人共、アマリエよりも十五は上だろうと思う。それどころか塔の魔術師の中にアマリエよりも年下の者は、去年塔に入ったという初級魔術師の少女一人しかいない。

 アマリエが最初によく話すようになったのがこの少女だった。

 少女の名は(よもぎ)。年齢は十五だそうだが小柄でもう少し若いようにも見える。

 「姉妹はみんな奉公にでています。私はいい奉公先が見つからなくて。」

 蓬の家では娘ばかりが五人も生まれ、口減らしのためもあって次々奉公に出されたらしい。一番下の蓬は奉公できる場所がなかったので、下働きも兼ねて初級魔術師として塔に引き取られたらしかった。

 「奉公できなかったから塔に入った」と言われる理由はすぐにわかった。魔術師はあまり稼げないのだ。神の島とも呼ばれるこの龍の島では神具の使用が盛んで、魔術師はあまり必要とされないのだ。せっかく修行してもたいして稼げないとなると、志願者が減るのは道理だ。商家にでも奉公に出たほうが、実用的な技能を身につけられるという判断もわかる。

 そうなると魔術師の塔に集まる術者の力量も下がり、当然引き受けられる仕事や、次代に引き継げる知識も減る。悪循環だ。

 塔主となったアマリエがまず始めたのは、ほぼ見習いの位置にいる蓬と、アジャに特に託された闇子の指導だった。

 蓬の指導は難しくなかった。

 本人も素直な質で教えやすかったし、初心者への指導は経験もある。自分よりかなり年下なのもやりやすい。

 それにひきかえ闇子への指導はとても難しかった。

 アジャが魔力を逃がす基本の魔法陣を教えていたが、それは一つの術を成功させるために何倍もの術をいっぺんに作動させるようなやり方だ。大きすぎる魔力量を調整せずに、強引に使い切ろうという発想で、無駄が多く持久力が削がれる。

 そもそも申し子というのは、元々大きな術を扱わせた方が得意だし、失敗も少なくなるのだ。アジャは複数人で扱うような大きな術を一人で発動するが、あれこそが申し子の魔術の真骨頂というものだと思う。

 軍事においては一人で一軍に値するとまで囁かれるのが、申し子の上級魔術師というものだ。

 つまり大きな術を扱える、上位資格を取らなければ、申し子の力が生きない。だからアマリエは、少々強引にでも闇子に上位資格を取らせるつもりだった。

 ただ、すでに四十をこえた闇子には上位資格をとる意欲がない。ずっと失敗を恐れながら術を使っていたせいか、魔術に妙な癖がついてもいる。

 ただ、アマリエがかなり年下である事への拒否感は少なかった。ずっと年下の魔術師に抜かされ続けた闇子は、年下の下風につくことに慣れていたのだ。

 そういう意味では暫定塔主を務めていた姉の明子の方が難しい。明子にも上級資格を取らせようと思っているのだが、認定も指導もアマリエが行うより他にない。明子は見るからに堅苦しく厳しい風貌の女性で、その外見に相応しく頑ななところが強く、指導するのはひどく気疲れした。


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