花唐草と仔猫4
懐かしい、と思った。なんのてらいもなく。
世界を渡る旅をした若い頃の思い出が、本当にそのまま現れたようなものだ。
一緒にザヴィータの宮廷に潜入したサラとサイとシア。
それから短くも実りのあった恋の相手、ジン。
やはりジンの「幼なじみ」はシアだったようで、二人は当たり前のように寄り添っていた。
四人とも本当にあの時のままだ。もう二十年近く前になる、アジャが十七歳だったころ。
あの時はまだ新米の上級魔術師で、リリカシアとなる未来なんて考えたこともなかった。
あの時、アジャはジンに恋をしていた。
でも、愛していたかと問われれば即答できない。
出来るだけ、それが可能な間、そばにいたいと思った。
ずっとそばにいられないことはわかっていた。
ずっとそばにいられないと言うことを、覆そうとは思わなかった。
愛というのが永遠を目指すものならば、アジャの抱いていたのは愛ではない。
そして、再会して確信した。
あれは、終わったことなのだと。
だから、ただ懐かしかった。
ジンが、その伴侶たる少女と再会し、寄り添っていることを喜ばしく感じた。伴侶であるシアもまた、アジャにとっては親しい友だ。過ごした時間は短くても生活をともにし、同じベッドで眠ったりもした。
ジンの「幼なじみ」がシアだと気づいた時、胸が痛まなかったと言えば嘘になる。
でももう、それも過去の痛みだ。
あれから色々なことがあった。
リリカシアとなり、先王が亡くなり、子供を生んだ。戦の指揮を覚え、幾度かの遠征も経験した。
年月にふさわしく、自分は歳をとったと思う。
今、目の前にあの頃のままの姿の魔法使たちを目にして、自分がそこから遠くまで来てしまったことを実感している。
アジャはもうジンに恋はしない。
今の夫王や子供たち、リアーナも含めた家族を愛しているからでもあるし、ジンに恋をする頃を過ぎてしまったからでもある。
自分は二度とジンに恋はしない。
断ち切られた恋は断ち切られたまま消えたのだ。
そして、それは悲劇ではなく、むしろあるべき形へ向かう過程だったのだと、今のアジャには思える。
あの時、恋した事を後悔しない。
あの時、消えた恋に未練はない。
その思いは静かにアジャの中に収まった。