花唐草と仔猫3
晩餐の席では最初の謁見とは違い、王とも二人の王妃とも近しく接することができた。ジン以外の三人の魔法使がアジャと親しい友として扱われていたからだ。ジンの立場は微妙だが、アジャは自然な調子でアザルの塔に滞在中に、共同で研究をしたことがあると、ジンを王に紹介した。
それは、嘘ではない。
ただ、その時二人の関係はただの共同研究者ではなかったというだけだ。
近くで姿を見、話をしても、アジャはやはり幸せそうだった。王もだが、リアーナと本当に仲がいい。
派手ではないが王妃に相応しい上質な衣装を着こなし、堂々と振る舞っている。
ジンはふと、アジャがアザルにいた頃に、王宮に呼び出された時のことを思い出した。きちんと化粧をして髪を上げ、上等の衣類をまとったアジャは意外なぐらい様になっていた。今思えばあの頃から、すでにアジャはこういう世界にそれなりに馴染んでいたのだろう。そういう意味では元々「別の世界の人」だったのだ。
それに、アジャは変わっていた。
いや、変わっていないことは多い。たぶんその方がずっと多い。ただ、年と立場相応の落ち着いた振る舞いを身につけたアジャは、もうあの頃の少女ではなく、一人の大人の女性だった。
その事が、ジンにアジャの年齢を感じさせた。
二人が恋をしていたころ、ジンはアジャよりずっと年上だった。今、歳をとらなくなったジンは、アジャよりも年下だ。この差はこれから開く一方で、縮む事は決してない。そしていつか年をとって、アジャはこの世を去っていく。
ジンが愛した少女であったアジャはもういない。そう思うべきなのだろう。
未練かな、と思う。そうじゃないと言い訳したい気持ちも疼く。アジャにも自分にも、今の立場があって大切な人がいて、何を始めようというわけでもない。
そのくせジンは、アジャの中に自分の影を見たいのだ。自分の足跡を、自分が変えたものを、自分への情を見たいと見出だしたいと願っている。嫌いあったわけでもなく、決定的な破局もなく、余りに淡々と別れてしまった事が、ジンの中でモヤモヤとする気持ちの理由なのかもしれない。
ジンを前にしたアジャに、余りに動揺のないことも、なんだか納得がいかなかった。
彼女の肌に触れたことがある。
男にとってそれは、相手に自分を刻み込んだような実感を伴う行為だ。その刻み込んだものがなかったように扱われていることに、納得がいかない。
イライラとまではいかないモヤモヤしたものが、ジンの心をざわつかせる。
その、気持ちにばかり気をとられたジンは、シアが静かに自分を見つめていることに気付かなかった。