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アジャの初陣①

 大変間があきましたが、双王妃新作です。


 当代リリカシア、アジャ-アズライアは、初陣に勝利を得て凱旋した。

 山脈の北に雪崩こもうとしたザヴィータを、各国と連合軍として協力し、押しとどめたのだ。

 アジャは自ら塔の魔術師と軍を率いて参陣し、申し子の強大な魔力をもって、ザヴィータの召喚精霊を無効化し、連合軍の勝利に多大な貢献をした。

 ザヴィータの陰謀によって前王を弑されたリカドにとってその戦いは復讐戦とも言えるもので、リリカシア凱旋を民は歓呼の声で迎えた。


 アジャの凱旋をもちろんエドは喜んだ。

 何よりもアジャが無事に帰って来たことにまずホッとしたし、兄の仇であるザヴィータに一矢報いた事も嬉しい。

 だが、凱旋の口上を述べるアジャはあまりにも凛々しく、何か距離を感じてしまった事も否めなかった。

 エドはリカドの王だ。

 アジャはエドのリリカシア。つまり二人の妃の一人である。

 だが、エドは未だにアジャの寝室を訪った事がない。

 父である先々王、兄である先王の続いての崩御に混乱し、ザヴィータの介入をかわしながらの即位の折に緊急的な形で迎えざるを得なかった双王妃は、どちらもエドの旧知の友人だった。

 国母妃(リアーナ)エリシア。

 魔導妃(リリカシア)アジャ。

 アジャは当時、エド以外を父親とする子を懐妊中で、あれほど混乱している状況でなければ、すんなりとリリカシアに迎える事はできなかっただろう。実際にあの状況下にあってすらアジャをリリカシアに迎える事に対する批判はあったし、今もある。

 いや、さすがに今では「あった」と言うべきか。

 連合軍の勝利の立役者であるリリカシアは、国民の絶大な支持を得た。そのリリカシアを簡単にすげかえるような事はできるものではない。

 そもそもエドはアジャ以外のリリカシアを迎える気など毛頭なかった。

 エドはずっと、アジャに恋をしていた。

 エドが自分の中の根深い恋心に気づいたのは、アジャの懐妊が明らかになった時だ。アジャが誰か自分の知らないところで恋をし、子を身籠ったと言うことに、凄まじい衝撃を受けた。

 当時、ずっと病臥していた父も、即位式で召喚精霊の襲撃を受けた兄も生命が危うく、エド自身も抱えきれないほどの課題をかかえて必死にこなしている状況だった。

 だが、エドにとってアジャの懐妊は、そのすべてが一瞬吹っ飛ぶほどの衝撃だったのだ。そしてすべてが吹っ飛んだあとに、ひび割れた思いがころりと転がっていた。

 こんな致命的な気づき方もないだろうと、エドは過去の自分に突っ込んでやりたい。

 アジャとの付き合いは短くない。気づく機会ぐらいいくらでもあっただろうに。

 でなきゃいっそ気づきたくなかった。

 単なる親しい友人としてアジャをリリカシアに迎える方が、きっと楽だったろうと思う。

 懐妊中を通じて無理をさせてしまったが、アジャは恙無く女児を産み、その子マナリエはエドの養女としてリアーナであるエリシアが育てている。すでに三歳になるが、王家の長姫として恥ずかしくない自慢の娘だ。エリシアの産んだ弟妹をとても可愛がっている。

 エリシアを素直に母と慕っていのを見ると、アジャの事はなんと思っているのだろうとも思う。エド自身、リリカシアを母として生まれているが、実母との距離感は師とも、母とも、曖昧だ。

 アジャはマナの事はほとんどエリシアに預けっ放しで、塔の主として、あるいは公人としてのリリカシアの仕事に忙しくしていた。今回の出陣も本人が言い出した事で、当然のようにマナを置いて出ていった。

 自分は、アジャの恋を引き裂いたのではないか。

 自分は、アジャの子を取り上げているのではないか。

 自分は、アジャの幸せを搾取しているのではないか。

 前提に恋心がなくても、この状況でその事を考えなかったとは思わない。

 だが、なまじ恋心を抱いていたがために、エドのアジャへの気持ちはいっそう後ろめたさを帯び、その事がアジャの寝室を訪う勇気をくじいた。

 

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