仔猫の行方 2
「これ…」
散らばった本を拾い集めるマナリエに、本が差し出された。
「すみません、ありがとうございます。」
受け取って見上げると、小柄な少女が目に入った。遠目にだが見たことはある。王宮に客人として迎えられている「魔法使」の一人だ。見た目で言うとマナリエよりも年下にしか見えないけれど、リリカシアの古い友人ということなので、見た目通りの年齢ではないのかもしれない。
魔法使、というのがそもそも謎の存在なのだ。
魔術師ではなく魔法使。
世界に立った四人しかいないという例外的存在。
実を言えばマナリエは魔法使の定義を知らない。世界中の大多数の魔術師は魔法使などという者が存在していること自体を知らないだろう。マナリエ自身、目の前に現れて初めて知ったくらいだ。王の養女にしてリリカシアの娘、王宮生れの王宮育ちのマナリエにしてである。
魔法使の少女に手伝ってもらって本を拾い集めながら、マナリエは少女の方を忍び見た。
長い白銀の髪に鮮やかな緑の瞳。白い頬は内側から照らされたように仄かな赤みを帯び、唇には淡く紅をおいている。淡い緑のフリルをたっぷり重ねたドレスに羽織った淡いいろの魔術師の衣の裾を、美しいドレープの出るようにリボンで絡げて着ている。
「これで全部拾ったんじゃないかな。」
もとのように本を高く積み上げて少女が笑った。
それから少女指が、重ねた本の背表紙をなぞる。魔力がふわりと本を包み込んだ。
「しばらくは崩れないから、運べると思うよ。」
いとも簡単に、当たり前のように少女は本を魔術で縛ったけれど、普通ならそんなに簡単なことではない。術を使って何かで本を縛るのと違い、力そのものを本を縛るのに使うなど、マナリエにはどういう術でできるのかもわからなかった
少女はそのまま行ってしまって、マナリエは名前を聞くこともできなかった。