龍の耳にて7
アマリエは結局、一度も患者を見舞わなかった。外国人であるアマリエは、老女には刺激が強い。出ていっても良い影響はなかっただろう。
それよりも、塔を収める方に集中した。
沸騰し、破裂してしまいそうな塔をなんとか収めなければならない。そのために結局古参が出ていくことになったとしても、仕方がないのではないか。そんな気持ちも少しあった。
現在の塔の中で頑なに自分たちのやり方だけを貫く古参は、ひどく異質な存在だった。
だが、明子と闇子の姉妹が一緒に患者の手当に向かうのを見て、アマリエは自分のその気持ちを恥じた。どんな形であれ薬師として人の治療に関わるなら、一番大切なのは患者の事だ。それぐらいの事をどうして忘れていたのだろう。
恥じる気持ちは塔のほとんどの魔術師に共通だったようで、塔の騒ぎはいくらか沈静化した。
老女は症状を悪化させ、その後いくらか軽快したものの、元々持っていた別の病の悪化で呆気なく亡くなった。かなりの高齢であったことと、長年老女に関わっていた明子がつきっきりで手を尽くした事で、遺族は納得したらしい。
投薬の不注意を責める言葉はなかった。
老女の治療をきっかけに姉妹は話あったらしい。
結局、明子は上級試験は受けずに、自分の取り巻きたちと共に塔を出る事になった。塔を出て、麓の街で施療院を開くことになったのだ。
施療院は塔の支援を受け、お互いに協力する。
そうすることで塔が地域に馴染む一助を担う。
やってみると多少年齢が上めであるほうが、患者の受けがいい。そのうち塔から派遣される若手が助手のような形で入るようになった。
いずれ地元出身者に後を引き継ぐつもりで引き受けた塔主の座だったが、アマリエが塔主を務めた時期は十年を越えた。
闇子は決して塔主の座を受けなかったし、明子は上級資格を取らなかったからだ。
蓬が上級資格をとったことで、アマリエは塔主の座を譲って故国にもどった。
その後、戦死したアジャの代わりにリリカシアを務めることになったのは、また別の物語である。
次はアジャの長女マナリエの物語となります。