人生のスパイスです。
前代未聞の騎士学院での使い魔と共に戦う試験に中止を求める教員達の姿もあったの。
そんな意見を麟鳳亀竜が睨み1つで黙らせたわ。
学院長は悩みながら「互いにそれを望むならば、致し方ない」と許可をだしたの。
試合が開始される前に互いの使い魔と心を通わせるように話す二人、私はどちらが勝つか分からないでいたわ。
タウリと水の精霊のクエンが今どれ程、強くなっているかを私は知らない。
サトウと鎌鼬のカリンの実戦も特訓とは違って何処まで力を出し切れるか不安でもあるわ。
正直、タウリが使い魔を使うなんて発言をするとも思ってなかったし、不安要素だらけね。
私の頭の中で色んな考えが論争する中、試合開始の合図が告げられる。
試験には木製の剣が使われるの。
タウリは木で作られたロングソードを使い。
サトウは同じ木で出来た木刀を使う。
緊張の一戦、会場が静まり返った一瞬、一陣の風が音もなくタウリに向かって吹いた瞬間、サトウとカリンが先手をうったの。
サトウは木刀を手に真っ直ぐタウリに駆け出していったわ。
一定の速度で進んでいきタウリが剣を構え応戦しようとした瞬間だった。
サトウの歩幅が短くなり、減速したの、リズムを変化させて、更に大きく踏み込む素振りからの1歩後退してみせる。
変則的な歩幅の変更、そして再度、サトウが足に力を入れて踏み込んだ瞬間、目にも止まらぬ凄まじい突きがタウリの片腕を掠める。
予想外の剣速に私自身、目を見開いて見いってしまったわ。
「やるじゃないか! でも、騎士見習いを舐めすぎだ! ウヤァァァ!」
タウリが突き出された木刀が戻る前に先進し、体勢を屈めてサトウの懐に斬り掛かる。
タウリの木の剣が触れる瞬間にサトウの体が大きく後ろに飛んだの、会場からは見えづらいみたいだけど、私の【鑑定の瞳】は確りとカリンがサトウを後ろに飛ばしたのを見たわ。
完全に回避したと思った瞬間、タウリの剣が水に包まれ長さを変える。
水の刃と化した剣を手にタウリが攻撃に転じたの。
サトウも体勢を整えて真っ向から木刀を構えると風を全身に纏って走り出したの、そんなに広くないリングを考えれば片足1歩のリードが大きく勝敗をわける、私は瞬きを忘れて試合に見いってしまっていたわ。
タウリの水の刃がサトウの体に触れた瞬間、水が風に弾かれ元の長さに戻る、サトウはそのタイミングで木刀を斜めに振り上げると風がタウリの脇腹から肩に向かって吹き上げる。
タウリの服がはだけて、真っ赤な線が刻まれる。
振り上げた木刀が戻る一瞬タウリが足を踏ん張らせると、剣をそのまま、振り抜く。
再度、後ろに後退しようとするサトウ、しかし、予想外の事態がサトウを襲ったの。
リングに散乱した水がサトウの足元に集まり、水溜まりをつくっていたの。
水溜まりはサトウの足を確りと掴み、回避を封じる。
その瞬間、タウリの剣がサトウの腹部に直撃したわ。
その一撃が勝敗をわける一打となったの、激しい打ち合いと互いの使い魔の力を全力で使った編入試験の勝者はタウリになったわ。
誰もが予想だにしない激しい試合、勝者がタウリに決まった瞬間、会場がざわめき、拍手が巻き上がった。
サトウはよく頑張ったけど、使い魔を使用した初の試験と言う事もあり、ポイント等のルールは無効になっていたの。
残念だけど、サトウは騎士学院への編入は出来なくなったわ。
申し訳なさそうな素振りを見せるタウリに対して起き上がったサトウはニッコリと笑みを浮かべると「久々に熱くなったよ。ありがとうタウリ君」と語り、二人は握手を交わしたの。
いい試合だったのに結果、編入出来ないなんて不服よ!
怒りを露にする私、そんな私にサトウは「負けちゃったよ、ごめんカミルさん」と口にしたの、悔しかったと思うし、色んな思いがあったと思う、それでもサトウは自分の敗北を認めたの。
「ふん、言ったでしょ。特訓と本番は違うの……でも、サトウはよく頑張ったわ。それは認めてあげる。さぁ帰るわよ!」
私はサトウとカリンにそう言うと会場を後にしようとする。
そんな私達を待っていたタウリは深々と頭を下げる。
「本当にごめん。本気で遣らないと勝てなかったし、剣だけの試合なら俺が負けてたと思う、正直、サトウの剣の腕を知らなかった、ごめん」
心からの謝罪か……タウリも成長したわね。
「タウリ、今から残念会をするわ。サトウが許すなら悪役としてなら来てもいいわよ」
少し意地悪な口調で微笑む私、サトウは勿論「来てください」と言ったわ。
その日の夜は勝者と敗者が並ぶ残念会になり、麟鳳亀竜のメンバーも参加の残念パーティーになったの。
悔しさもあるけど、人生って、そんなスパイスも必要だと思うわ。
サトウの事は明日の朝に考える事にして、今日は確りと「お疲れ様」と言う気持ちを伝えてあげないとね。




