パンはパンでも……違うんです。
馬車が目的地であるベジルフレア城に到着するとルフレとバイルの二人が大勢の兵隊と共に私達4名を出迎えたの。
攻撃されない出迎えなんて初めてね、でも悪くない気分だわ。
「バイルさん、ルフレ。今日は出迎えなの?」
私の言葉に豪快に笑うバイル。
「ああ! なんせ、大魔王のお嬢ちゃんを出迎えないとならんからな、このクラウン=バイル自ら志願したって訳だ!」
その横で申し訳なさそうなルフレも私に挨拶をする。
「やぁ、カミル。バイル将軍は嬉しくて仕方ないんだよ。久々に血が沸騰したって喜んでいるくらいだからね。其れよりも王に失礼がないように気を付けて、流石に勝ち目のない戦争はしたくないからね」
あら、珍しく冗談を口にするなんて……ルフレも緊張してるのかしらね?
「大丈夫よ。私達だって今日は話し合いで来てるのよ? 信用して」
そんな私に対してペンネが笑みを浮かべながら喋りだしたの。
「マドラッドを話し合いと言いながらも、確りと制圧したカミルの発言じゃ、話し合いとは恐ろしき言葉よなぁ」
「ペンネさん! カミルを困らせては駄目ですよ? あ、カミル、私もペンネさんもカミルが好きだから今は一緒にいるんですから? 大丈夫です! 神も恐れぬカミルならどんな人も魅了しますよ」
「ペンネさん、アララさん、二人の気持ちはわかりますが、お嬢様を世界で一番愛してるのは私です!」
あぁ~頭痛いわ……王城の前でする話じゃないわよね……
呆れるを通り越して、頭痛に発展しそうな会話を右から左に受け流そうとした時、左から「いやはや、実に賑やか」と言う聞き覚えのある声がしたの。
出迎えの兵隊が胸に手を当て頭を下げ、ルフレも同様の行動を取る。
バイルも軽く会釈をするしぐさを見せるその先に居たのはベジルフレア王だったの。
慌てて私も御辞儀をしようとするとベジルフレア王が優しく声を掛けてくれた。
「いやいや、畏まらなくていい。寧ろ立場は逆と言ってよいのだから、余りに楽しそうだったのでな、自ら足を運ばせて貰っただけじゃしな」
そう口にするベジルフレア王、その時、バイルが小声で「動かず騒がずのベジルフレアを動かすか」と告げる、私は意味が分からず首を傾げるとメルリが耳打ちをする。
「お嬢様、ベジルフレア王は近隣諸国では“動じずの王”と呼ばれているのです。麟鳳亀竜の存在も大きな理由ですね」
つまり、王自ら出向いた事より、この場に向かわせた事実が凄いわけね?
「ベジルフレア王、本日はミルシュ=カミル、ヘルム=ペンネル、アラナラムル、トルル=メルリの4名をお招き頂きありがとうございます」
最初が肝心と思い確りと挨拶する私、しかし、4名の名を挨拶に入れた事が原因でベジルフレア王はその場に膝をついたの。
「なんと、アラナラムル様……まさか……女神アラナラムル様がミルシュ=カミル、いえ、ミルシュ=カミル様と言うべきですな、どの様な理由が有ろうとも女神アラナラムル様に剣を向けた事実は変わりませぬ……御許しを」
いきなり始まった謝罪に兵はざわめき、バイルとルフレは事態が理解できずに困惑の表情を浮かべている。
「待って、何でベジルフレア王が謝るのよ! 確かにアララは女神だけど、今は別の女神が後釜になってる筈で、世界の記憶からは抜けてる筈なのよ!」
そう、女神アラナラムルと言う五次元女神はマルルが別の女神と交替させたので、人々の記憶には新たな女神の存在が上書きされている筈だったの……でも、ベジルフレア王には間違いなくアララの記憶がある、意味がわからないわ?
ベジルフレア王は慌てる私に訳を話してくれた。
「我々、王と呼ばれる存在は神より選ばれた人間の祖先の血を引いている。つまり、人々と違い世界で起きる神々の行動を把握し、決断をくだす存在、神の意思を伝える存在なのです」
やめて! 私に王様が敬語とか話しづらいから……
そう……この瞬間、私は1国の王どころか、全世界の王の上に立ってしまったの……有り得ないわ。
「あ、あの、ベジルフレア王? 取り敢えず中で話しませんか……兵隊さん達も困惑してますし……あはは」
私の言葉をそのまま聞き入れると会議室のような部屋に通される私達。
本題に入る私は先ずはマドラッドの麦の流通経路の確保とそれに掛かる税を他の麦と一律化にして貰うように提案、同時に植物性油とベジルフレアの農産物、果実やキノコ等の特産品のマドラッドへの流通経路の確保を願い出たの、同時に新たな食の開拓も提案したわ。
パン1つを取っても作り方や焼き加減1つで全てが変わる為、ベジルフレアのパン職人に技能強化をしたいと考えたの。
交渉は寸なりと受け入れられ、国中のパン職人が集まる大イベントが決定したの。
「あと、私から無償で蜂蜜を提供したいの、パン職人さん達にはレシピを渡すわ。あと同時に出来た焼き立てパンをイベントに来た全員に食べて貰いたいの、かなりの数のパンが必要になるけど、その説明も頼みたいんですが? いいですか?」
私の提案にベジルフレア王は笑いながら頷くと直ぐにレシピを国中に送るように手配してくれた。
麦はマドラッドから余り過ぎた物を提供し、代わりに私が作製魔法で魔族農家の欲しいものを作って渡す物々交換で話がついたわ。
イベントの開催は二週間後に決まり、私達も忙しくなるわ。
ついでにザカメレアにも話を持ってかないと? 休む暇がなくなりそうだわ。




