甘いお菓子に夜の香りなんです。
お昼過ぎ、平らに整備された道路の上を進む私達は小さな村に立ち寄っていたの。
ククルペン一座が軽く店を開くと言うので見てみる事にしたの。
よく考えたら、何を売ってるか知らなかったし。
大型の馬車の片方の壁が開き中から大きなテントのように広げられるシート、左右に木の支えを取り付け確りと固定されると開いた扉の裏が段のついた棚みたいに作りになってたの、位置は座席と同じ場所ね。
凄く面白い作りだわ。
店が構えられると、陽気な音楽にピエロに扮した団員が客の注目を集めてたの。
店に並べられた装飾品や民芸品、その他、塩に麦なども売られていたわ。
そんな中に一緒に売られてたのがコーンフレイクだったの。
コーンフレイクと言っても簡単に粉末を乾燥させて作ったプレーンね。
大きなお煎餅のような形をしていてビックリしたわ。
それよりも驚いたのは味だったわ。
何の味もしない単なるとうもろこし煎餅なんだもん。
「これって売れるの?」
素朴な質問をミルホに問い掛けるとミルホは笑ながら教えてくれたわ。
「カミルさん……それは馬用で人は食べないですね、わざわざ生地にしてるのは持ち運びが楽だからなんですよ」
つまり、私の知るコーンフレイクは存在しないのね?
「面白い事を考えたわ。その乾燥したとうもろこしを別けて貰えないかしら?」
不思議そうに私を見詰めるミルホ、薄く乾燥させたとうもろこしを別けてくれたので、早速、生地に砂糖を溶かしてシロップを塗りたくり、それを火炎魔法で軽く焼いて砂糖をコーティング、砕いてから蜂蜜を絡めて、更にもう一回焼いたら完成よ。
名付けてハニーコーンよ。
懐かしの私の世界の味ね。
「うん。香ばしいし、美味しいわ。これならイケるわね!」
私達もククルペン一座の隣で商売を開始したの。
勿論今回の目玉はハニーコーンよ。
立ち込める甘い香りに鼻を擽られるようにやって来る村人達。
私は何時ものように試食を配り、味見をして貰ったの。
一時間の間に出来た長蛇の列、帰る顔は笑顔が溢れてたわ。
素敵すぎるわよね。子供も大人もニコニコしてるんだもの。
ミルホ達も私達のハニーコーンに興味津々みたいだったの、だから味見をして貰ったわ。
「何これ! 甘いし歯ごたえもあって、何なのこれ!」
ミルホ達の反応は思ってた以上にいい反応だったわ。
初めての食感に口に広がる甘味と鼻を突き抜けるような蜂蜜の香りは止まらない食欲に繋がる筈よ。
因みにハニーコーンは一袋、300ロンド、ミルホ達から生地を100ロンドで仕入れて、それで五袋作れたから100ロンド辺り1400ロンドの儲けになったわ。
仕入れた生地は700ロンド分、儲けは味見分を差し引いて、9500ロンドになったわ。
ククルペン一座もそこそこの儲けになったみたいだし、本当に良かったわ。
それから店をたたみ、馬車を走らせる事にした私達とククルペン一座、その日の夜は大きな木の下でキャンプをしたの。
夜はバーベキュー、儲けた売上げで野菜に肉にお酒を買い込んだの。
私も今日は呑むつもりよ、冒険者は自由に生きる者を指す言葉だもの。
楽しい宴に音楽が鳴り響き、焼ける肉と野菜の香り、仄かに鼻を擽るアルコールは皆の顔を笑顔にしていったわ。
私とメルリも軽くお酒を口にして、楽しい時間は過ぎていったの。
夜空に星と月が輝き、私達を照らし出すと優しい風が頬を優しく撫でてくる。
少し火照った身体には気持ちいいわ。
そんな私達はゆっくりと夜を過ごしたわ。
明日は最高の朝になりそうな予感がするわ。




