メルリの暴走が止まらないんです
じい様との1ヶ月があっという間過ぎ去り、何だか夏休みが終わった時のような気持ちになる。
私は強くなれたのだろうか? じい様は「十分に強い」と言ってくれたが実感が湧かない……そもそも、召喚師になれたり、上級魔導師になれたのは私の実力じゃない……なんか虚しくなってきた。
そう、私は悩んでいる。
自分の本来の力はどれ程だったのか、そして、今の力は何処までがチートなのか、じい様の笑顔を見てそう考えさせられた。
「私って、何なんだろう……」
「お嬢様は私のお嬢様ですわ」
「カミルは大切な存在よ」
なんで……二人とも私の部屋でくつろいでるのよ。
「なんで、メルリとアララが居るのよ……てか、さっきまで居なかったわよね?」
その後、メルリから部屋の鍵を回収、アララは天界から遊びに来たらしいので、取り敢えず先に連絡するようにだけ、伝えたわ。
「大丈夫ですか、カミル? デンちゃんとスカーから話を聞いて元気が無いようなので心配できたんですよ?」
「私もお嬢様の落ち込む吐息を感じて急いで駆け付けたんですよ!」
メルリの性癖には、なんも言えないわ……取り敢えず心配かけちゃったんだ? 悪いことしたなぁ。
勇気を出すべき時に一歩前進する、それは遥かに険しい道のりになる事を覚悟しなければ出せない勇気だ。今がその時だと思う。
「アララ、私の本来の才能を教えて、メルリにも秘密は無しにしたいのだから、お願い」
アララの困った表情をみて私は自分が元はなんの才能も無かったのではないかと考えている、当然、私は元が地球人だから、それもあり得る。聞いておいてなんだけど、怖い……
「カミルの本来の才能……本当に言っていいんですか? そのメルリさんも居ますし、余りオススメしませんよ?」
私を気遣うアララに感謝だわ、でも知りたい。
アララは教えてくれた私の本来の才能。
「カミルは……魔王幹部に匹敵する魔力を持った魔獣召喚師ってところです」
「ハアァァァァッ! なんでいきなり魔王なのよ!」
アララに私が詰め寄ると、怯えた顔で謝るアララ。そして予想外の事実が明らかになったわ。
私の生まれ変わる筈だったミルシュ=カミルの肉体と魔王復活を待つ魔王幹部の肉体を、あのダメ天使のクレレが間違えてたの。
有り得ないでしょ! 何処の世界に魔王幹部と普通の女の子を間違える天使が居るのよ!
「因みに、生まれ変わった魔王幹部はどうなってるわけ?」
私の質問にアララは魔王から叱られ、世界を好きに暴れると言われてしまったらしい。
……なんか、平和そうな会話だけど、魔王やっぱり居るんじゃん!
「待ちなさいよ! つまり世界の危機な訳?」
しかし、アララは自信満々に答えた。
「大丈夫です。今の魔王さんは、殆ど無害なので、実は此処だけの話なんですが、魔王さんの魂も入れ間違いがありまして、その際にはクレレのお菓子を三ヶ月禁止しました。本当にその後、魔王さんの肉体を探すのに苦労しました」
アララさん……なんでクレレをそのままにしてるのかしら?
魔王の肉体を手にした存在、それは、じい様のパーティー麟鳳亀竜の最後の一人、残虐非道を刻むクラウン=バイルだった。
一番合わせたらダメじゃん……はぁ。
しかし、バイルはアララいわく凄く優しく、いい人らしい。
盗賊や山賊には容赦なしだが、村人達には横暴な振る舞いはしないらしいわ。因みに今はベジルフレア王国の将軍兼、兵士の教育責任者つまり、教官をしてるらしい。
なんか、魔王が勇者になりましたみたいな展開ね?
話を聞いていてアララがどれ程に大変な思いをしてきたのかが分かる。
よし決めた!
「アララ……クレレをこの場に呼び出しなさい……」
「え、あの? カミル……」
私の顔から滲み出ているであろうお仕置きスマイルにアララが逃げようとする。しかし、逃がさない「メルリ、逃がしたら駄目よ!」と言うとアララを簀巻きする。
実に素晴らしい手際だわ!
アララが諦めクレレを呼び出す。
笑いながらポーズを決めて姿を現したクレレ。私は満面の笑みを向ける。その後ろに簀巻きにされているアララを見て表情を凍り付かせるクレレ。
そして、逃げた。
逃がすかぁぁぁぁッ!
「待ちなさいよ! クレレ!」
「イヤでし! その顔は人殺しの顔です! 危険でし」
私を殺した張本人がそれを言うか……
「人殺しはアンタでしょうが! メルリ、ゴーッ!」
華麗な縄さばきが、一瞬で掛け布団に包まれるクレレを縛り上げると簀巻きの出来上がり。
「ふふふ、クレレちゃん、久しぶりの再会嬉しいわぁ」
叫ばないように口に、ちゃんとタオルを噛ませれば準備完了よ。
「人は笑い無しじゃ生きていけないって読んだことがあるわ」
私が取り出した羽ペンを見てクレレは全てを察したのか、暴れまわる。
目が私に助けてと訴える。仕方ないわね?
「メルリ、クレレは預けるわ! 逃がしちゃ駄目だけど、他はある程度許してあげるわ!」
私の言葉に目を輝かせるメルリ。その横で首を左右にひたすら振るクレレ、それを悲しそうに見つめるアララ。
まさにカオスね?
「取り敢えずクレレ、反省してきなさい!」
「ういいうううんんん!」
よく聞こえないけど、まぁいいわ。気晴らしになったし。
クレレを連れてガルーダと何処かに消えたメルリ。
少し心配だわ……クレレ、ガンバ!
アララを解放すると泣きながら「酷いですよぉぉぉ」と訴えてくる。
何故かしら……少し・・・ときめいたわ、メルリの影響かしら危ない危ない。
「いいのよ、クレレには後でメルリの使い魔になってもらうつもりだから」
私の発言に首を傾げるアララ。まぁそうなるわよね。
クレレの悪気のない態度は実に訪問販売向きだから、いつか役に立つはず。
私は自分の力がどんなものかも理解し更に秘密を共有する存在が増えた。
内心孤独だった私は少しそれが嬉しい。
その後、アララと森に言って心配してくれていたデンキチ達に謝った。
正直自分勝手な時間を過ごした私も反省ね。
それからデンキチと特訓をする事にしたのよね。
相手はスカーとメガにお願いしたわ。
スカーも少し成長している見たいで、スピードも一段と速くなってて驚いたわ。
メガは更に力をつけたようで、デンキチと互角に力比べをしているし、デンキチも楽しそう。
皆の成長を目の当たりにしながら、私も全力で修行の成果を見せつけたわ。
デンキチの攻撃に反応できるくらい早く動き、スカーからの連打も身体を軽くして、全て回避、更にメガの体当りも、じい様必殺の身体強化魔法と物質変化魔法で確り防御できた。
因みに体当りしたメガの方が脳震盪で倒れてしまったのには困ったわ。後遺症がないから良かったけど、少し考えて使わないと、反省だわね。
その後は皆で川で水浴びをして汗を流してから養蜂場の手伝い。
ジュレのお陰で安定して蜂蜜が作れるとクイーンは上機嫌で喜んでいた。
ボスとモームも最近は襲ってくるモンスターがいないと笑って教えてくれた。
私は凄く幸せだ。
そして夕方、森に姿を現したメルリとクレレは既に使い魔の契約に成功していた、やり方は教えてないが、どうやらクレレからメルリに頼んだらしい。
危ないコンビの完成ね。いや、似た者同士ってやつかしら?
賑やかに笑いながら森での時間を過ごした私達は家に帰る事にした。
明日が今日より素敵になるように願いながらベットに横になる私の隣に何故か寝ているメルリとクレレ……ダブルベットにしないとダメね。




