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じい様は最高に頑固で暖かいんです。

 気持ち、その場の雰囲気や一緒にいる人により変化する曖昧ながらも絶対なる純粋、今、私は笑っている。


 嵐のような悪天候を吹き飛ばしたあの日から、約一月半、時間にして44640分を読書と新たなる魔法と体術に費やした。

 寂しかったけど、その間の養蜂場の管理をメルリに託し私はじい様の元に通い続ける事で稽古と修行をつけて貰う。


 最初は当然断られた。何度も摘まみ出され、図書館の前に何時間も頭を下げてから帰る。


 それでも諦めないし諦めたくない。私は、じい様と手合わせして感じた悔しさ以外の感情。じい様に指導してほしい。


 今更だが私の魔法はじい様の図書館から借りた魔導書と魔法書から手にした。詰まりは読み理解した結果である、しかし、それは覚えただけであり、じい様のように戦術や応用面に関しての乏しさを知った私からすれば、上手く操れないマニュアル車を何とか走らせてるような感覚に他ならない。


 私が図書館に通い始めて三日目の朝、やはり弾き出された。


「駄目だと言っとるだろう! 儂は弟子など取らないし、人に教えるような人間でもない! 諦めて帰れ」


 そう言い図書館に入ろうとするじい様。


「お願いします……私は……じい様以外から魔法を学びたくない……もう、一人で本から学んで天狗になるのは嫌なの……お願いします、じい様」


 私は本気だ。本気で魔法と向き合いたい、じい様の前でそう思い気持ちを吐き出すと自然と涙が溢れ出す。


 悔しいよ、情けないよ。こんな凄い人が近くに居て、知り合えたのに私の頭じゃ、なんて言えば伝わるの、どうしたら、じい様が頷いてくれるのか、分からないよ……


「はぁ……頑固者が、よくもまぁ毎日諦めんなぁ、明日、日の出前に来い。時間厳守いいな」


 私に向けられた言葉、その瞬間……緊張の糸が途切れ、その場で倒れ込む私の意識は次第に薄れていく。慌てるじい様の声と遠くから聞こえるメルリの名を叫ぶ声だけが私の耳に残る。


 目覚めると図書館のソファーに寝かされメルリが濡れタオルを交換してくれていた。


「お嬢様の……“おバカァ”心配したんですよ。風邪を引かれてるのに無理して二日も外で立ち尽くして」


 メルリの泣き顔と小さく口にされた“バカ”の言葉、本当に私はバカだと自分で思う。


 少し離れた机からチラチラと此方を気にかけるじい様と目が合う。


 私は迷惑を掛けた事を謝る為に起き上がろうとすると「寝とれ、無理するな。無茶するうちは敷地内立ち入りじゃよいなカミル」と無愛想に口にするじい様。それは、じい様なりの優しさだ。


「この……頑固じいさん! お嬢様に向かって! 赦せませんわ」


「たく、近頃のガキんちょは、口の聞き方を知らんらしいな?」


 龍と虎が睨み合うように対峙する二人、私がそれを見て咳き込むと二人は心配そうに私を見つめ、じい様が飲み水を運んでくる。


 メルリから(たらい)を受け取り代わりに飲み水が手渡され、黙ったままに盥の水を入れ替えるじい様。


 私は泣いていた。暖かいんだ凄く体は寒くて震えているのに心にいっぱいの温もりが溢れ出すの……ありがとう。


「二人とも……ありがとう」


 目を瞑り静かに眠りについた。


 次に目が覚めると自分のベットで眠っていた。服は寝間着(パジャマ)に着替えさせられており、おでこには濡れタオルがあった。


 そして、ゆっくりと開かれた扉から姿を現すメルリの手には湯気の出る器が持たれていた。


「お嬢様、御加減は大丈夫ですか?」


 メルリの心配そうな言葉、それとは裏腹に少し照れくさそうな表情を浮かべている。


「メルリ、どうしたの? 貴女もまさか風邪?」


「違います! その……弱ったお嬢様が可愛すぎて、それに私の手で着替えさせたので、思い出すと興奮が」


 忘れてた、メルリは危ない娘だったわね……


「色々引っ掛かるけどありがとう」


 メルリが持ってきたのは“ミルカルシュ”


 パンと牛乳を煮込み黒糖を加え、砕いたクルミの粉末、きな粉、黒蜜を食べる直前に混ぜて食べるパン粥だ。


 私も小さい頃によく食べた。離乳食として使う際はパンと牛乳のみだったので余り好きではなかったのをよく覚えている。


「はい、お嬢様。あーんしてください」


 楽しそうなメルリに言われるまま、口を開き小さく「あーん」と言うとメルリは嬉しそうに笑った。


 私は一口食べた際にある閃きが頭を過った。

 私は空間魔法(ストッカー)から薬草の花から作る蜂蜜“ハニーキュアリプルを取りだし、ミルカルシュに掛けて食べたのだ。


 以前、万能薬となった蜂蜜、これなら風邪くらい直ぐに治る筈だわ。


 その日の夜まで安静にし、身体をメルリに拭いてもらう、マイヤが拭こうとしてくれたが、メルリが先に私の元に来ていたので、引き受けたらしい。


「お嬢様。明日から頑張ってください。養蜂場の方は私が手伝いにいきますので、全力で頑固じいさんに吠え面をかかせてやってくださいね」


 その日もメルリと寝る事になった。私の身を案じて床で寝ると言って聞かないメルリ、熱は下がったが、寝る前に一様、予防策として、二人とも蜂蜜を飲んでから睡眠についた。


 朝になる前、私は目を覚ますとメルリに掛け布団をかけ直し、図書館へと歩みを進めていく。


 図書館の前の階段に腰掛けるじい様が私に気づく。


「熱は、大丈夫みたいだな。遣る気はあるんだな?」


「あるわ。じい様、宜しく御願いします」


 いつもと変わらぬ態度、それは寧ろ嬉しい。私は図書館の中に通され、立ち入り禁止の札の付いた扉の先にある階段をじい様の後ろに続いて下りていく。


 図書館の地下に着いた時私は目を疑った。地下に更に図書館が存在しており、その先に更に別の巨大な部屋が作られていたからだ。


「儂も焼きが回ったもんだ、此処にある書物は持ち出し禁止の禁書ばかりだ。絶対に外に持ち出すな、いいな?」


 じい様の言葉は正しい、普通なら私のような子供に禁書を見せるなんて自殺行為だ。リスクばかりでメリットなど一欠片も存在しない、それでも私を此処に通してくれた事実に感謝しかない。


「私は約束は守るし嘘はつかない。じい様、感謝するわ」


「相変わらず子供らしくない奴だ、だがそうでなくては困る。簡単に挫折されたら儂も単なる愚か者に逆戻りだからな」


 じい様の表情はその一瞬だけ険しくなった。


 それから魔法の基礎から再度勉強をする。当然だが、独学とじい様と言う師がいるのでは状況は違う。


 文字からわからぬ微妙で繊細な魔力のコントロール、魔力の限界を感じた事の無い私の魔力を計算しそこから何処までの魔法を使えるかを再確認するのに数日を費やしていく。

 基礎と魔力の把握が終わった時、じい様が笑った。凄く明るい笑顔を私に向けながら笑ったのだ。


「カミル、お前は世界を変える程の魔力を秘めている、今は荒削りだか、儂が確りと教えてやる。間違いにならないように確りとな」


「ねえ、じい様、私はじい様の弟子になるのかしら? そうなら師匠って呼ぶべきかしら、それとも先生、グラベル様とかキッシュ様? それともグラベル老師かしら?」


「今まで通りで構わん、詰まらん事に頭を使うな。それよりあっちの部屋で次の修行だ行くぞ」


 私は禁書のある部屋から隣の広い部屋へと案内された。部屋の壁は防御魔法で確りと覆われ、閉められた扉にも同様に防御魔法が掛けられる。


 両手に順番に火炎魔法を発動するように言われ私は言われた通りに片手に球体を作り出した。

 次の火炎魔法を発動する寸前、じい様から「炎の渦が高速で回転するイメージをしてみろ」と言われそのイメージを膨らませ更に球体の内側に無数の渦が回転するように想像し発動する。


 私の片手には普通の火炎魔法の球体と反対の手には球体の内側と外側を逆回転しながら輝く球体が現れていた。


 投げてみろと言われ、最初に普通の火炎魔法を壁に向け撃ち放つ。

 壁には傷ひとつ付かない、更に次の渦を巻いた火炎魔法を投げようと構える。


「投げる前に、炎の形を確りと想像しろ! 魔法はイメージなくして形をなさぬ」


 私のイメージ、ならば!


 頭の中でデンキチを想像しそれを掌に集めていくように神経を集中すると全力で撃ち放つ。


 炎が掌から撃ち放たれた瞬間、形が変わり星の形に変化する。燃え盛る炎が壁に激突した瞬間、壁に巨大な亀裂が走りその亀裂から炎が消えること無く燃え上がっている。


 じい様も予想外だったのか余りの威力に跳び跳ねて喜んで見せる。

 その日、新たな魔法と言うべき火炎魔法“フレイムスター”を私は知らぬ間に完成させてしまった。


 それから全ての魔法にイメージをプラスする事で更なる威力に繋がる事実と曖昧なイメージは自身を危険に晒す事を学んだ。


 じい様は私に昔話を語った。

 まだラッペン達とパーティー“麟鳳亀竜(りんぽうきりゅう)を組んでいた頃に一人の少年が弟子になりたいと言ってきたそうだ。

 少年は使い魔は居ないが魔法の才能に溢れ、直ぐにその力を開花させた。メンバーも仲間だと認めるまでに成長した。しかし、少年は力に奢りが生まれると、次第に考え方の違いから孤立し始め、パーティーから姿を消した。


 その数年後、じい様達“麟鳳亀竜”が立ち寄った町で再会した少年は青年に成長していた。

 青年になり魔力が大幅に上がった事もあり、良からぬ野心に心を染め、町でその力を使い王のように振る舞う姿にじい様は怒り、二人で話をすることになる。

 そして、悲しい結末が生まれた。恩師であり師匠であるじい様を不意討ちで襲ったのだ。

 青年は、じい様と正面からぶつかれば勝ち目が無い事は明白だと自身で気付いていた。


 しかし、不意討ちで倒される程、じい様は弱くなかった。

 服の袖が破れ剥き出しになった“唯我独尊”の文字、それが青年の見た最後の光景であり、不意討ちからの咄嗟の反撃は青年の身体を貫き、絶命させた。


 じい様は自分の未熟さを感じながら青年の亡骸を川原に運び、メンバーと共に火葬したそうだ。


「カミル、お前には、分からぬかも知れんだろうが、力は人を狂わせる。お前が間違った方向に行かないことを信じている」


「じい様、私は大丈夫だよ! 絶対にじい様に同じ思いさせないわ、だから……泣かないでよ」


 じい様の昔話は楽しい物ばかりではない、だからこそ、此れからの人生は笑ってほしい。


 話が終わり、次は身体強化の魔法を習う事になった。

 私の攻撃を容易く受けられたのはこの身体強化魔法と物質変化魔法を使った為であった。


 じい様の教えでその日新たな魔法を取得した私は改めてじい様の凄さを全身に感じた。

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