森の中でも大パニックからの御説教です!
悠々爛々と森を歩く私はまさに欲望赴くままに活動する気満々であった。
そんな私の眼にメルリとデンキチ達が困った表情を浮かべていた。
どうせ、私が悪巧みをしていると思っているのだろう、しかし! 私が悪巧みなんて考える訳がない。
「何よ、その顔はデンキチ?」
徐にデンキチの頬っぺたを優しく引っ張る私。
『カミルの手加減は手加減になってない』
少し痛かったみたいね? ごめんね。と、思いながらも上手く喋れないデンキチが可愛くて仕方ない。
静かに木々が風と戯れる音を聞きながら森の出口を目指し歩いて行く。
既に目的の樹精霊を仲間に出来たので急ぐ必要は無いからだ。
久々の森の薫りを体全体で感じる私。そんな私の鼻に嫌な焦げ臭さが舞い込んできた。
「何、この臭い、まさか火事? 皆行くわよ!」
無我夢中で走り出すと直ぐに火を慌てて消そうとしている青年が眼に入って来た。
水魔法を使い必死だが一向に火が消える様子はない。
「邪魔、退きなさい! そんなんじゃ森が更に燃えちゃうわよ!」
私は燃えた木々を冷凍魔法で瞬間的に凍らせ飛び火を押さえると水魔法の上位魔法である水魔法を発動する。
凍らせた木々諸共、凪ぎ払いその場を水の球体で一気に覆い尽くした。
「ふう、何とか大火災に為らないですんだわね、それよりッ! って、あれ?」
この火災が何故、起きたのか聞こうとしたが青年の姿が見えない。
「逃げたのかしら?」
そんな私に対して、球体を指差すデンキチ、その先に苦しそうに藻掻く青年の姿があり、私が見た瞬間に動きが止まった……マズイ!
慌てて球体を解除して、助けだし直ぐに息があるか確める私、しかし、呼吸が停止していた。慌てた私は取り敢えず心臓マッサージを力を抜きながら行うが効果がない。
「し、仕方ない……でも……私、初めてだし、でも人命にはかえられない!」
そう、私は初めての電気ショックを行う事にした。
デンキチに少しずつ電力を上げさせる事で威力を調整していく、筈だったが最初の威力が強すぎたせいで一回で鼓動が戻り呼吸を開始した。
「ハァ~ヒヤヒヤさせないでよ。危うく人生初の殺人犯になるかと思ったじゃない、まったく!」
それから、青年に事情を聞くと使い魔に標的を狙わせる特訓中、急に暴れだし、炎を四方に噴射しそれが森に燃え移ったと説明される。
直ぐに使い魔のファイヤーリザードを影に戻し、青年は未熟な水魔法を必死に炎を鎮火させようとしていたのだ。
それを聞いたデンキチ達が私を見る。
間違いなく敵意増大魔法の効果であり、私の責任であった。
「その、炎が消えてよかったわね。それじゃあ、私達はこれで……」
「待ってください」と私に言う青年は情けない表情で今にも泣きそうになっていた。
普通さ……子供相手にそんな顔するか ?
「な、なに?」
青年は私の使い魔を見て、どうしたら使い魔が指示に従うのかを尋ねて来た。
正直、上から使い魔を見てるのが伝わってきて不快だわ。ハッキリ言うしかないわね。
「アンタさ? 女にモテないでしょ!」
その言葉に固まる青年、しかし、私のレールガンのような言葉が更に青年を焼き尽くす。
「……つまりさ、使い魔を物として見てるアンタに使い魔が従うわけないわよ!」
「そんなつもり!」
「無いって言い切れるの? どうなのよ!」
黙る青年をじっと見る。
「使い魔は家族であり、親友なの、だから私にも従うし、私も無理強いはしないわ」
私の言葉は在り来たりだ、飾る必要ないし、その方が伝わる事も沢山ある。
青年は只黙って、話を聞き、使い魔を影から呼び出すと、私の目の前で強く抱きしめて見せた。
「ごめんな、フレイ……僕は今まで君を……本当にごめん」
ファイヤーリザードのフレイが主である青年に嬉しそうに抱きつく。
最後にフレイに向け「頑張ってね、また会いましょう」と、私は小声で呟き、青年とフレイに別れを告げた。
青年はライパンを目指し、私はアメト村を目指す、方向は真逆だが同じように使い魔を大切にする仲間が増えたような清々しい気持ちで森を歩いている。
深い森を抜ければ直ぐにアメト村への森が姿を現す。私の養蜂場のある森まであと少し。
「お嬢様、楽しそうですね」
「当然よ。メルリ、だって皆が私を待ってるんだもん」
私は満面の笑みを浮かべている。短い旅だったけど悪くなかったわ。さぁ急がないとね。皆に会うのが楽しみ。




