解放されし、レナクル王国です10
レナクル王国の港を潮風が通り抜ける、復興を誓い、食事もしないままにバルキュリアが残した爪痕の片付けに終われていた人々は……私とシュビナ、そして大国を力でねじ伏せるに至る程の巨大な兵力を前に体の自由を奪われてしまったかのように立ち尽くしていたの。
女王サンデアとソルトが待つ港に私とシュビナが二人だけで先に出向く、シュビナがそれを望んだの。
…………輸送が終わった直後だったわ、シュビナがバトラング兵にある命令をしたの。
「単純に侵略なら楽だったが、今回は違う……もう、侵略を考える必要もないからな、全軍、待機! 何が起きても命令無しに勝手に動くな、いいな?」
状況を理解している兵士達もシュビナからの争わぬ為の命令に少し驚いた表情をしていたわね。
改めてシュビナとサンデアが歩み寄り、港の中央に作られた市場として使われていた広場で互いの足を止める。
バルキュリアの侵略以前に列べられていた魚や野菜がピンクの雨に晒され、腐った臭い、散乱した商品が未だに残されたその場所は御世辞にも挨拶の場に相応しいとは到底……いえ、絶対に言えないわ。
「やあ、女王サンデア……酷い有り様だな。魚も野菜も腐り出し、悪臭を放っているじゃないか?」
まるで挑発するかのような、普段と変わらぬ態度で一国の女王にそうか足るシュビナ。
「返す言葉もありません。ですが!」
サンデアが喋りだそうとすると、シュビナが私を見て誰にも聞こえるであろう大声をあげて語りかけたの。
「カミル! 素晴らしいと思わないか、長き戦いで、腐りきった両国が新たに動き出すんだ、だが先ずは掃除だと俺は考える、どんなに良いモノも、腐っては意味がないからな……」
そう語るとシュビナは老将ドルドに視線を向けたの。
「さて、ドルド、よく聞けっ! 今から腐りきった全てを片付けるように兵に指示を出せ、言葉の意味を履き違えるなよ!」
うなづくドルド、そして……片手を軍勢に対して見えるようにあげる。
「前へ!」と言う、ドルドの掛け声にバトラング軍が一斉に全身を開始する。
「よいな……港の一掃を王が望まれたのだ、塵1つ残らぬように……全ての腐れを屠るのだ!」
怯える民達を見て、シュビナが軽く溜め息を吐く、そして……サンデアの体を国民の方へと向けさせる。
「悪いが、お前の国の民に呆れているぞ、サンデアよ……ガタガタと怖がるな! バトラングとレナクルは平和条約を結んだ! 怯える暇があるならば、お前らも港の片付けに加われ!」
バトラング軍は港から海岸にかけて、速やかに清掃を開始したの、崩れた店舗の瓦礫を軽々と持ち上げ、船を清掃する際の掃除用具を持ち出し、港のデッキ掛けも開始したわ。
港の瓦礫や残骸が次第に一ヶ所に集められ、腐った魚や野菜は疫病などに繋がらぬように、海岸で高温処理され、店の瓦礫は薪などに使える物は再利用され、それ以外の瓦などは細かく砕かれていったわ。
最初は怯えていたレナクル国民達も、バトラング軍の働きに負けじと掃除用具を持ち出したの。
港が驚くほど早く片付くとシュビナが数名の兵士に別の指示を出して、兵士達は速やかに掛けていく。
小隊となって、清掃をするバトラング軍にレナクルの国民が加わり、必要な清掃箇所が直ぐにわかるようになると、シュビナの顔にやっと安堵の表情が戻り始めたわ。
「なあ、カミル。お前は今回のバトラングとレナクルをどう見る……人とバイキングが互いの価値観をこえて上手くいくと思うか?」
私に語り掛けるシュビナ、その後ろから、サンデアも同様に質問を問いかけてきたの。
「シュビナ王の言う通り、レナクル王国とバトラング王国は不安定なままに繋がりました、ミルシュ大使の御意見を御聞きしたいのです」
表情をは違えど、私をじっと見つめる二人。
「そんなの、見てわかるじゃない? レナクルの港から始また掃除だけど、今は街まで、その動きが進んでいるわ。既に協力してるんだもの、不安こそ毒になるわ! 二人の大切な国は確りとやっていけるわよ」
その言葉に微笑むシュビナとサンデア、そんな時……食欲をそそる香りが二つの方向から風にのって、全員の鼻と胃袋をノックしたの。
「カミルちゃん。タリヤンさんに料理を教わって、使える食材で皆に料理を作ってきたんだ」
楽しそうに手を振る、サトウと鎌鼬のカリン、照れくさそうに顔を横にするタリヤンの姿があり、その後ろを大きな鉄板を背に乗せたフレイムゴーレムが堂々たる姿で料理を運んで来たの。
海岸からも「炊き出しの干し肉と魚、野菜のスープができました!」とバイキングの豪快な声が港に響く。
作業で食事を忘れていたバトラング軍とレナクル国民のお腹が鳴り出すと作業は休憩となり互いの国の料理が振る舞われる。
食事は平和の証だと思うの、この味は間違いなく両国を繋ぐわね。