蜂蜜の秘密とデンキチの過去なんです
朝目覚めてから、食堂に向かい、用意された朝食を食べる私、メグとカッシュは住み込みで使用人に、ナッツはこれを機に魔法使いを目指し、魔導院に入学することが決まり、朝早くラッペンの紹介状を手にトリム邸を後にしていたの。
私の隣には何故かアララが朝食を楽しんでいる……帰らなかったのね。
「あ! カミル? 今、私が帰らなかったんだ。とか、思いましたね、違うんですよ」
アララは昨日の晩にルフレに朝食に来ていいかを尋ね・・・許可を貰ったらしい。
パクパクとパンを食べるアララ。その手には私の蜂蜜が握られている。
「この蜂蜜、本当に美味しいですね。いくらでも食べれそうですよ……カミル?」
私のお怒りモードに気づいたアララの額から汗が流れ出し、私に開けたばかりの蜂蜜を手渡す。
そして……ゆっくりと走り出した。
「ってッ!! 逃がすかーーッ!!」
「ひいぃぃぃーー! ごめんなさい。だって美味しいからつい食べ過ぎちゃったんです」
ん? 食べ過ぎたさっきの開けたばかりよね。
チラッと、アララのテーブル下を見ると蜂蜜が入っていたであろう木の実が山積みになっていたわ。
「アララァァァッ!! なにしたのォォォ」
逃げるアララを取り敢えず中庭で捕まえた私、そして……目を見て怯えるアララ、まぁそうなるわよね、なんせ空間魔法に入れてた分まで食べてるのは明らかなんですもの。
「カミル、落ち着いて謝ります、今までの摘まみ食いの分も謝りますから許してください」
摘まみ食いまでしてたワケだ……アララ、なんて可愛い娘なのかしら、取り敢えずお仕置きねッ!
「さぁ! 話して貰うわよアララ? どうやって蜂蜜を取り出したの言いなさい」
アララは素直に白状した。五次元世界“ララリルル” の女神であるアララは空間を切ったり繋げたり出来ると言う新事実が判明した。
それを使って夜な夜な蜂蜜を摘まみ食いしていたらしい……女神なのに何してるのよ・・・
「それでアララ……今まで何れくらい摘まみ食いしたの正直に言えば許してあげるから言いなさい」
しかし、アララの発言に私は怒りを爆発させた……
「ストック……7分の6くらい……」
はい? 何を言ってるの……数年分の蜂蜜が入ってるのよ? 私の空間魔法の7文の6? 嘘でしょ!
直ぐに空間の中を調べ始めると残されていた木の実は全て空であった。
「アララ……取り敢えず、いつからなのかしら?」
「カミルッ! 女神との約束を破るのですか! 神との約束を違えれば天罰が……あの……聞いてますか……」
女神か……知らないわよ……寧ろ知らないわ。私の前にいる蜂蜜大好きの使い魔をどう料理してやるかしら……
そこから始まる擽りの刑は壮絶だったわね、アララが反省するまで1時間は擽り続けたわ。
「アハハッ、カミルゥ、許して。アハハお願いもう、お腹がアハハッ、素敵なプレゼントをあげるからお願い」
仕方ない、反省したみたいだし、蜂蜜は、またクイーンにお願いしよう。
「プレゼントなんていいから、次から勝手に食べたらダメよ! いいわね!」
「はひいぃ」
アララへのお仕置きが終わり、食堂に戻った私を待っていたのは、豪快に蜂蜜をパンにかけて食べるラッペンであった。
「おおぅ、カミル、見てくれ! この新しい蜂蜜なんだがな、実に旨い。今まで色んな蜂蜜を食してきたが、別格の旨さだ!」
しまった、さっきのしまい忘れた蜂蜜だ! かなり食べてるわね……
ラッペンの表情から、かなり気に入って貰えたのは間違いない、しかし、それは出所を知りたがるだろう……早くカッシュ達に口止めをしないとマズイと思ったその時、カッシュが姿を現して、チェックメイト。蜂蜜が私の養蜂場の物とバレてしまい……
「カミル、いや、カミル殿。どうじゃ? 商売をする気は無いか? 幼いながらに、これ程の蜂蜜を造る養蜂場を造れるのだ。1度は考えた事もあるだろう?」
確かに……最初は成り行きからの棚ぼたって喜んだけど、この蜂蜜はまだ売れない……それにクイーン達の蜂蜜には限りがある、王都で売り出されたら、皆の食糧が無くなるし……
「御免なさい。今は蜂蜜を売り出すことは出来ません」
残念そうに私を見つめるラッペン、仕方ない事と諦めて欲しい。
「ならば、ワシ、個人に売ってくれないか、勿論、代金は常識の範囲になるがちゃんと払う」
諦めてないか……私はラッペンに条件付きで蜂蜜を卸すことにしたの。
1、他の人に絶対に公表しない事。
2、ビンに入れて渡すので空ビンと交換と言う方法を守ること。
3、月に10個まで。
条件を受け入れたの事でラッペンが私の最初の御客になったのである。
そんな私は、蜂蜜が安定しない事を心配していた。当然、お金を貰うなら味を安定させたい、何とかならないかな?
悩んでいる私に念話が入り何やら嬉しそうに話すアララは、プレゼントを渡す許可が下りたと口にした。
『流石に今回のプレゼントは独断では決められないので時間が掛かりましたぁ。ですが! 飲みくらべで見事許可を奪い取りました!』
私に自慢気にそう語るとアララが“鑑定の瞳”を更にパワーアップさせた。
今までは色で識別してきた物が更に詳しく解るようになったのだ。
食べ物に使われている食材の種類も即座に頭の中に入ってくるし、花なんかの種類も即判別、まさにチートの極みである。
そんな私はある事実に気づいた、それは蜂蜜の成分を調べられるということだ。
そして、ラッペンが食べた蜂蜜の成分が解るとクイーンを召喚する。そして、同じ蜜を探して貰うと見つかったわ。
それからクイーンに頼みストックを作って貰うとあっという間にラッペンに渡す蜂蜜の生産が可能になった。
因みに成分は果実の花から集められた物で然程珍しい物は使われていなかった。しかし、通常の蜂が集める蜜とハニービー達の集める蜜では出来が違うのだ。理由はタイミング、花の蜜が一番美味しい瞬間を見極めて集める事にある。
正直驚かされました……凄いわ。
蜂蜜の名前は“ハニークイーン”凄く可愛い名前だと私は思う。
そして、万能薬となった蜂蜜の成分は薬草など、自然界の回復に使われる草の花から作られた蜜であることがわかった私は安心していた。
話がまとまり、次にラッペンが口にしたのは、デンキチの事だった。
私もデンキチについては謎が多い……本人に聞いても余り喋りたがらないからだ。
「あの……デンキチと言う使い魔だが、正直に言えば目を疑った。絶滅……いや、全滅させたとされる古代種のモンスターなのだよ」
真面目な表情で語るラッペン、私は自分の耳を疑いたくなる事実を聞いた。
デンキチことオルクスターは文字通りオルクの星と言う意味を持ったモンスターであり、最初にオルクについて語るべきでだろう。
ーーオルク。
海の神とされる海竜の王であり、後の召喚の王と呼ばれたエグザート=クロムエルによって倒される事になる。
オルクは傲慢な王であり、世界の始まりが海であるように、世界の王も自身であると口にした。
世界を蹂躙するようにオルクは数多くの海底モンスターを地上に放ち、戦となる。その際に強大な力を発揮したのがオルクスターである。
地上で自在に動きまわり、魔法を寄せ付けない特殊な体と無限の胃袋と言うべき食欲、村を襲えば全てを食らい尽くすオルク最大の侵略兵器であった。
しかし、オルクスターは攻撃魔法が通じないだけであり、幻覚魔法などは効果があった。そして……互いに襲い合い、数を減らし、後に駆逐されたとされている。
「これが、オルクスター全滅の経緯だ、実際に戦うまで、半信半疑だったがオルクスターで間違いないだろう」
初めてデンキチの事を知った。今のデンキチからは想像が出来ない。
それはともかく、過去は過去よ! 私はマスターなの! 主なの! 絶対にデンキチを守るんだから!




