解放されし、レナクル王国です9
今回の平和条約は完全にシュビナの手の平で遊ばされた感じね。
シュビナとアフロディアスの花の誓いを交わした事実を知らない女王サンデアからすれば、私は第三者の国からの大使に過ぎないもの。
“代表者による話し合い”となった時点で代表者以外の言動を全て制限し、話し合いの際に 「自身の意思で決めよ! 部下に頼らぬ決断を迫られているのだからな?」と、シュビナがサンデアに追い討ちを掛ける形になったわ。
条約締結後にシュビナが私に微笑み。
「ミルシュ=カミル大使、改め、ミルシュ=カルム=カミル……感謝する、お陰で俺の国とレナクル王国は本当の意味で同盟として、歩むことが出来る」
全てが綺麗に終わろうとしたその時、サンデアが声をあげたの。
「ちょ、ちょっとお待ちください……貴女はベジルフレア王国の大使と言う傍らでマドラッドの魔王をされている、ミルシュ=カミル大使なのですよね! ならば、今……カルム王と同じ名で呼ばれたのはいったい?」
サンデアが悩む姿にシュビナが笑いを必死に堪える、そんな時、話し合いが終わった事実に気づいたリーヴルとクレレが私達の乗る小型船までやって来たの。
「カミル、お話は終わったかな?」
「大丈夫でし、カミルは凄く話をまとめるのが上手いでしから」
そんな声がデッキにまで聞こえてくると、船の端から、ピョンと二人の髪の毛が見えかくれしているのが分かる。
頭隠してなんとやらね……まったく可愛いんだから。
「リーヴル、クレレ、取り敢えず出てきなさい、来ちゃダメって言ったわよね?」
二人の頭から髪の毛までが“ビクッ!”と反応する。
「く、クレレなんて言う者はいない……でしよ……勘違いでし」
「そ、そうかな、リーヴルなんて、知らないかな……寧ろいないかな……」
可愛いわよね? 本気で誤魔化せると思ってる訳じゃないだろうけど……
「まあ、いいわ。今出てきたら、怒らないわよ……3、2……1……」
数字を数えるだけなのに、凄く効果的よね?
なんて、最後の数字を口にしようとした瞬間、元気な声が響き渡る。
「待つでし!」
「待って欲しいかな!」
観念したように姿を現すリーヴルとクレレ、そんな二人を見て私が笑っていると、サンデアが話し掛けた時のまま固まっていたわ……流石に女王だけあって、質問を完全に無視される経験なんかしたことないわよね……
「あ、あのサンデア女王……あはは、私……み、耳があまりよくなくて……もう一度、話してもらっていいです……か……」
流石に……無理があるわよね……
「そ、そうだったのですね。でしたら、もう一度お聞きしますが、ミルシュ=カミル大使……貴女はカルムの名を継ぐ者なのですか……答えてください!」
意外にいけたわね? ただ、カルムの名を継ぐか……
「そうね……」と私が語ろうとした時だったわ。
「俺が惚れた女だからな? 無理矢理にでも、継いで貰うさ、それにまだ式を挙げていないからな、それまでは俺も気が抜けないのが現状だ」
シュビナの言葉に不覚にも“ドキッ”としてしまったわ、少し顔が火照る感覚、本当に恥ずかしいわ。
それでも、その答えにサンデアは微笑みを浮かべ、私とシュビナを見つめたの。
「本当に変わられたのですね、バトラングの王、カルム=シュビナ。貴方がそんな発言をするなんて……どうやら、レナクル王国は素晴らしい王達と同盟を組めるようですね」
それから私達は、全速力でレナクル王国へと船を進めたわ。
海を進むバトラング大船団の掲げられたマスト、そこに両国の国旗が印され、太陽の輝きに照らされる。
レナクル王国の誰もが予想だにしなかった結末、この平和条約から新たな未来が動きだしていく。
レナクルの港がざわめき、動揺と不安が表情に出る国民達、そんな事を微塵も気にしないシュビナ、先に入港したソルトの大型海賊船、そんな海賊船を倍以上大きくしたような事バトラング大船団の船が港を囲むようにして錨を下ろす。
完全に停止したバトラング大船団のガレオン船から、次々に小舟が降ろされていく。
小舟と言っても、普通の漁船くらいのサイズがあるわ、そんな小舟にバイキングが大体、四人程乗り、レナクル王国の港に着くと三人が上陸し、小舟がピストンにてガレオン船からバイキング達を運んでいく。
海岸と港がバイキングで埋め尽くされようとする時、小舟がガレオン船に引き上げられ、輸送の終わりを告げたの。
内容を知らなければ、レナクル王国、絶体絶命みたいな光景ね……考えてみると、笑えないわね?