解放されし、レナクル王国です2
港までの道を駆けていく最中、木の影から私達に鋭い視線が向けられる。
その場で立ち止まり、視線の先を睨むように見つめると姿を現したのはシャムスだったの。
巨大な薙刀を片手で確りと掴み、額には真っ赤な鉢巻き、死装束を思わせる白い服装に身を包む姿は只ならぬ緊張感を漂わせているわ。
「待っていました……メルリ! あのような……屈辱的な敗北は操られていたからに他なりません。今一度、真剣勝負と参りましょう!」
気迫に満ちたシャムスの表情から、私は理解したわ……メルリの悪い癖が出たのね。
シャムスの言葉に仕方ないと両手を軽くあげるメルリ。
「今一度、真剣勝負? 甘いですね、世の中には一度決した勝敗が消えるなどと言う子供の戯れ言は存在しないのですよ! 貴女は私に敗北し、屈辱的に大敗したのですから」
挑発するように、上から目線な態度をとるメルリ、そんな態度に身を震わせるシャムス。
「ですが、リーヴルお嬢様とお嬢様、ダブルお嬢様の目の前で私の戦う姿を見て貰うのも素敵ですわね……仕方ないので、お受けしましょう!」
予想外の発展に私は頭を抱え、リーヴルの後ろへと移動したわ。
「え、カミル? 何で私の後ろにいるのかな? できたら、横にいて欲しいかな……なんて」
「いいから、見てなさい……と言うより、見せていいのか悩ましい気がするけど」
不思議そうに首を傾げるリーヴル、しかし直ぐにその理由を理解してくれたわ。
メルリはメイド服に隠していた鞭を取り出す。
そして、背中に背負っていた荷物を安全な場所に置くと風を切り裂くような激しい音を打ち鳴らしながら、次第にメイド服のスカートを自身の鞭で削り取っていく。
「あわわッ! カミル、メルリの服が!」とリーヴルが口にした瞬間、両手でリーヴルの視界を塞ぐ。
「リーヴル、見ちゃダメよ。あれは悪い見本よ!」
私の言葉に軽くうなづくリーヴル、そんな私達の姿にショックをうけたメルリが更に鞭の速度を上げていく。
「シャムス……貴女のせいで、ダブルお嬢様から変な目で見られてしまったじゃないですか!」
「な、私のせいではなく、メルリ自身に問題があるからでしょ!」
互いに子供の言い合いになっていく様子を眺めている私とリーヴル。
そんな時、一瞬の隙をついて、先手を打ち放ったのはメルリだったの。
激しく打ち出される高速の鞭がシャムスの衣服を掠める、動揺し足元が縺れたシャムス……其処からは見るも無惨だったわ。
「オホホ、どうですかお嬢様ッ! メルリは確りとお嬢様の目の前で……実力……を、あら? お嬢様ッ! お嬢様!」
シャムスとメルリがじゃれあっている間に私はリーヴルを連れて目的地の港へと向かっていたの、教育的にメルリの戦闘スタイルは宜しくないもの……
それから直ぐにレナクル王国の港に到着した私達、船着き場を見渡すも、ソルト達の船は未だに帰還していなかったの、被害状況が気になるわ。
私がマップを開こうとした瞬間、リーヴルが大声をあげて、水平線を指差したの。
「見てみて! 小さな船がいっぱいだよ!」
指差した先には遠く離れた海賊艦隊の姿があったの、近づくに連れて次第に大きくなる船団に興奮するリーヴルが両手を振りながら跳び跳ねる。
「ふぅ、ソルト達は無事みたいね、よかったわ」
船の数は多少減っていたけど、マップに表示された名前を確認すると皆の無事が直ぐにわかったの、本当によかったわ。
船は魔法で作り出すとして、ソルトには私と一緒に話し合いの場に来てもらわないといけないわね……
なんせ、バトラング国王が指揮する艦隊を止めないといけないもの、レナクル海軍の提督であり、海賊艦隊の頭であるソルトなら、相手として十分な筈だわ。
「デンキチ、出番よ! リーヴル、今からデンキチが船に連れてってくれるのよ、あの一番大きな船に乗れるわよ」
デンキチを召喚し、ソルトの元へ向かって貰う。
『小さい子乗せて大丈夫? 落ちないでよ』
『普段、私が乗るときはそんな気遣いしないくせに!』
『カミルは……落ちても無傷なイメージがある……イデデ、デデ……』
細やかにデンキチの頬を摘み上げると私達は港からソルトの指揮する艦隊に向かっていく。
まだまだ、長い一日になりそうだわ。