敵は戦神バルキュリアです10
拍手をやめる女王サンデア、組んでいた足を下ろすと玉座から立ち上がり、ゆっくりと歩みを進めて来たの。
「よくぞ来たな、キサマがバトラングの希望と言うわけだな……予想より遥かに幼いな?」
容姿の幼さを驚く素振りを見せながらも、隙を見せない女王サンデア。
「あんたがバルキュリアだって事は分かってるのよ! いいから、サンデアの体から出ていきなさいよ!」
正体を語るとバルキュリアは嘲笑うように額に手を当て、不敵に笑みを浮かべたの。
「ふふふ、この姿では戦いたくないか? 本当、平和な世界よ……ならば、戦いたくなるように少し良いものを見せてやろう」
そう語り、腕を高く上げるバルキュリア。
伸ばし腕の上に空間の歪みが現れる、其処にはレナクル領海が映し出され、今まさにソルト指揮の海賊艦隊とワルキュリア艦隊が激しく戦闘を行っている真最中だったの。
「早く助けに行きたかろう? そうでなければ、海賊達は海の藻屑となるだろう……我が魔力にて造り出したワルキュリア艦隊……今回は確りと意思を与えてある……急がねばなぁ?」
その言葉に私は怒りを感じていた、女王サンデアは悔しいだろう……
自身が大切にしてきた部下達が操られた、仲間同士で戦う事が……その部下達に自身の意思に反して敵を差し向けている事実が……
私の怒りが頂点に達したと同時に操られている筈のサンデアの瞳から涙が一滴流れた瞬間、タリヤンがうなづく。
女王サンデアの意思を汲み取るように武器を構え、両目から涙を浮かべた タリヤンが一気に加速する。
「サンデア様ッ! うわぁぁぁ!」
掛け声と共にサンデアへと振りかざされた得物……しかし、タリヤンの渾身の一撃はサンデアの体を僅かにそれ、室内の床に引かれた真っ赤な敷物が無惨に床にめり込んでいく。
その一撃が作り出した隙を見逃さず、バルキュリア、サンデアの魔力を使い、タリヤンを一気に追い詰めていく。
「さぁ、さぁさぁ! どうした? お前の大切なサンデアの体を取り戻したいのであろう?」
タリヤンは……サンデアを攻撃出来ないのだと直ぐに私は悟ったわ。
「タリヤン……下がってて、私がいくわ……」
「待て!」
私はその言葉を無視するようにタリヤンの元に歩みを進めると服を力任せに掴み、サトウに向けて放り投げたの。
バルキュリアはその間、手出しせず只、私を待ち構えていたの。
「真打ち登場……と言うわけだ……さて、キサマは私を楽しませてくれるのであろう?」
「えぇ、楽しくて天界に逃げたくなるよう、徹底的にやってやるわよ」
互いに睨みあうと、先に動いたのはバルキュリアだったわ。
サンデアの魔力を使い、高温の炎を作り出すと室内でそれを爆破させたの。
リーヴルとタリヤンを庇うように、サトウが即座にフレイムゴーレムを召喚する。
それと同時に床が重みに耐えられず崩壊する。
私はその瞬間に、バルキュリアに向けて風魔法を撃ち放つ、爆発により作られた穴からバルキュリアを外に弾き出す事に成功したわ。
バランスを取り戻そうと、浮遊するバルキュリア目掛けて、私はドラゴンの羽を広げ、崩れた城内から加速したまま、一気に突っ込んだの。
「ハァァァァッ! いつまでも、調子にのってるんじゃないわよ!」
「う、やめろ! 来るな、来るなァッ!」
バルキュリアは身の危険を本気で感じたのだろう、咄嗟に防御魔法を複数シールドのように展開する。
そんなバルキュリアの作り出したシールド魔法を容赦なく打ち砕き真っ直ぐに突き進む私、そして、チャンスの時が訪れたの。
憑依していたバルキュリアがサンデアの体内から抜け出したの。
「やるじゃない! でも、助ける筈の女王をそのスピードでどう救う?」
私自身、既に加速し過ぎた今の状態を止められない……でも、止まらずになんとかする方法はある!
女王サンデアの体に最大防御の防壁魔法を発動し、更に防壁の前にU字になるように同様の防壁を展開する。
一瞬で作られる防壁が私の体を自然とバルキュリアに向けて傾けていく。
それに気づいたバルキュリアが慌てて逃げようとしたけど、絶対に逃げられないんだから、だって……辺り一面を最初から見えない防壁で駆け込んであるんだもの。
「な、なんだこれは!」と防壁に驚くバルキュリア。
「光の壁のお返しよ! ハアァッ!」
そのまま、バルキュリアに突進した私は物理攻撃が聞かないであろうと予測していたの、なので予め、空間魔法から取り出していた蜂蜜を入れる瓶にバルキュリアを魔法で封じ込めてやったわ。
私は見事にバルキュリアの封印に成功したの、ただ……落下した女王サンデアは防壁のお陰で無傷だったけど、途中で意識を取り戻したいみたいで、再度泡を吹いて気絶していたみたい……まあ仕方ないわね……