敵は戦神バルキュリアです9
私達を待ち構えていたのは、レナクル王国 女王サンデア直属の侍女シャムスとその部下達だったの。
「……タリヤン……何故、裏切ったのか説明してもらう……」
冷たい目線が此方に向けられる。
シャムスの質問に対して、タリヤンは不敵な笑みと共に静かに声を発したの。
「愚問……サンデア様が主人と本能が語るからだ、でも、今のサンデア様は、まるでマリオネットのよう……下手くそな人形劇は好きになれない……」
そう語るとシャムスと戦う為に構えをとるタリヤン。
「待ちなさい、タリヤンさん。お嬢様は貴女に案内役を任せているのです、最後までお嬢様を案内して貰います……シャムスさんでしたか、済みませんが私が相手をさせていただきます」
メルリはタリヤンとシャムスを戦わせたくなかったんだと思う……
「メルリ、任せるわよ! あとで絶対に合流しなさい。これはお願いじゃなく、私からの命令よ! 無理はしないで……いいわね」
私はリーヴルの手を引き、そう口にすると、真っ直ぐに厨房の出入り口に向かって駆け出したわ。
「急いでついてかないと、カミルちゃんは早いから」
そう口にしたサトウがタリヤンの手を引いて後をついて来たわ。
「ちょっと! 本当にあのメイド一人に戦わせる気なのか、敵はシャムス、一国の女王を護る騎士だぞ! ……あの女を捨て駒にしたのか?」
タリヤンの言葉に怒りを口にしようとした瞬間だった、サトウが私より先に口を開いたの。
「カミルちゃんの周りに捨て駒なんて存在しないよ、それにメルリは絶対に死なないよ。カミルちゃんが「絶対に合流しなさい」と命令までしたんだからね」
サトウの言葉にタリヤンが有り得ないと言いたそうな表情を浮かべるも、予想外の返答を返したの。
「なら、あのメイドが生きていたなら、一杯、最高の酒を奢るとしよう、まあ無駄な賭けになるだろうが」
「うん、最高に美味い料理も頼むよ。タリヤンさん」
「ふん、約束しよう、その時はメイドにも最高の料理と酒を馳走するさ」
その言葉で私とサトウは満足だったわ。リーヴルは、かなり怒ってたけど……
そこから、タリヤンが先頭になり、一気に階段を駆け上がる。
私達の行く手を阻むように現れる操られた兵士達、そんな彼等をタリヤンが容赦なく蹴散らしていく。
「敵を通すな……敵を蹴散らせ……」と次々に現れる兵士達。
「邪魔、弱いなら操られても、隠れてるべき……」
3本の純銀と思われる棒を腰から取り出し連結させる、長めの麺棒程の長さになった得物を両手に握り、容赦なく叩き込むタリヤン、その姿には流石に驚いたわ。
「ちょっと、いいの? 操られてるっていっともあなたの仲間なんでしょ!」
気絶させると言っても……やり過ぎと言う言葉しか浮かばなかったわ。
「構わない、気絶する奴はどちらにしても鍛え直す、気絶しない奴は気絶するまで叩きのめす……いつものことだ」
うわぁ……ブラックだわ……
色んな思いを胸に、私達は最上階に居るであろう、女王サンデアの精神を乗っ取ったバルキュリアの元へと向かう。
最後の階段を踏みしめた先に続く長い通路、その先に姿を現した巨大な扉……
不敵に笑みを浮かべ足をくみ、王座に腰掛ける女王サンデア……私達を待ち構えていたと言わんばかりに手を打ち鳴らしていたの。