敵は戦神バルキュリアです7
私達の辿り着いたレナクル王国内部にある水汲み場には人の姿は無く、まるで神隠しにでも合ったのかと疑いたくなるほど、物が置かれた生活感のあるテーブルに並んだ食べ掛けのパンと萎びたサラダが放置されていたの。
「ダグさんの仲間のかしら……いきなり、皆の日常がおかしくなるなんて……やるせないわね」
テーブルに置かれた子供が父親に渡したのであろう似顔絵を見て、口の中を噛み締める私。
「カミルちゃん、直ぐに元通りにすれば大丈夫だよ。今は目的を忘れずにだよ」
「そうですね。サトウの言う通りです……今ある悪夢を終わらせて、お嬢様の素晴らしさをレナクル王国に知らしめねば!」
「それは違うかな……でも、カミルの辛さはリーヴルには分かるかな……凄く悲しんでるのが、心に流れてくる感じ……かな」
皆の言葉に自身の両頬を両手で叩き、真っ直ぐに前を向く。
「そうね。レナクル全体がこんな状態何だもんね、落ち込んだりしてる時間はないわね」
無言で微笑み、うなずく三人に私もしっかり、うなずく。
外に出る私達、水汲み場に置かれていた黒い雨具を借り、服装を誤魔化すと一心不乱にレナクル王国【女王サンデア】の城を目指し駆け出したの。
王都内はまるでゾンビ映画が現実になったような光景が広がっていたわ。
人々が目的もなく虚ろなままに徘徊しているような状態だったの。
「まるで私達の事に気づいてないみたいだわね」
人混みの中を駆け足で抜けていく私達に反応すらしないレナクル国民。
「カミル、この人達、変だよ! スゴく不気味かな……皆笑ってるし、こう言うのは私は苦手かな、うぅぅ」
確かに私の目にも不気味に見えるわ、何処か遠くを見つめるような目に、微かに笑っているように見えるんだもの。
「お嬢様、少し変じゃないですか?」
「少しどころか、かなり変よ、いきなりどうしたのよ?」
私とメルリの会話にサトウが一言。
「メルリが言いたいのは、女性の姿が無いって事だよ、さっきから男性の姿しかないんだよ」
サトウの言葉に辺りを見渡す。
何処を見ても女性の姿はなく、老人から子供に至るまで全ての目に写る人々は男性だったの。
そんな私達の進む先に、他の人達と雰囲気の違う、子供の姿が入ってきたの、髪を1本の三つ編みにした女の子が路上で下を向いて泣いているのが見えたわ。
私達が近づくと、少女は突然、駆け出していく。
「お嬢様、どうしますか、小さな女の子ですが、明らかに他の人とは違うように見えますね」
本当なら、スルーするべきなんだろうけど。
「小さな子を放置するなんて出来ないわよ! 追うわよ! 安全な場所に移動させてから城を目指すわ」
急ぎ、少女の後を追うように建物の角を曲がる。
この決断が間違っていたのよね、少女を追って向かった先は広い空地になっており、明らかに誘導されたと言う雰囲気を漂わせていたわ。
「本当にこんな手で引っ掛かるなんて、呆れるな」
私達に向けて、そう言い放つ女の声、そして、目の前に姿を現した一人の少女。
レナクル王国、女王サンデア直属の料理人兼、侍女のタリヤンだったの。
「久しぶりだな、カミル大使……貴女の姿を見た際には目を疑った」
「タリヤンだったわね、サンデア女王の侍女の貴女が何でこんな所に」
私とタリヤンが互いに向き合う形になる。
その直後、大勢の武器を手にした女性達が私達を取り囲むように姿を現したの。
「チッ、話はあと……戦うか逃げるか決めろ」とタリヤンが口にしたの。
「戦うって、レナクルの国民なのよ!」
私の言葉に呆れたような表情を浮かべるタリヤンは「真っ直ぐに走れ!」と口にすると突然、煙玉を使い煙幕を作り出したの。
言われるままに、駆け出した私達の後ろから、追ってくる女達、そんな女性達の行く手を阻むように無数のロープが複雑に張られる。
タリヤンが私達の後方からくる女性達を傷つけないように投げたクナイに結ばれていた物であり、驚く私にタリヤンが声を掛けてきたの。
「国民を傷つるのは、私も望まない……今は走るぞ」
その言葉にタリヤンは敵ではないと確信したの。