敵は戦神バルキュリアです6
見つかった! 咄嗟に走り出そうとした瞬間、更に声が響きわたったの。
「駄目だ! そっちに行ったらいかん!」
その言葉に引き留められるように足を止める。
瞬時にマップを確認すると巨大化させて全体図を見ていたせいで見落としていた道の切れ目が直ぐに見つかったの。
私達が向かおうとした曲がり角、その先には崩れた通路があり、知らずに駆け抜けていたらと思うとゾッとしたわ。
「お嬢様、どういたしますか? 敵の数をお教え頂けたら幸いなのですが」
メルリとサトウが戦いに備えるように私とリーヴルの前に構える。
「メルリ、サトウ、敵の数はわからないわ、水路を流れる水が毒マークになって表示されてるんだけど、水滴なんかが通路にも飛んでて通路がある以外は毒マーク一色なのよ」
軽く絶望感が漂う最中、私達に近づく声の主。
「お前ら! 大丈夫か、ハアハア……怪我してねぇか」
あまりに予想外の言葉に私を含め皆が驚きの表情で互いの顔を見合わせてしまったわ。
私達の元にやって来た声の主は全身を水避けの作業服で身を包み、顔にはマスクのような物とゴーグル、頭にはバンダナと言う不思議な格好をしていたの。
ゴーグルとマスクのせいで顔もわからないわ、口調からもわかるけど成人男性ね。
「貴方は、レナクルの人……なのよね?」
本当なら、見つかった時点で覚悟を決めていたけど、どうやら操られてる様子はないわね?
「……ん? 当たり前だ、それより何で子供達だけで、こんな場所に来たんだぁ?」
素直に話すべきか、悩んだ末に、私は水滴に侵入した事を素直に話したの。
「そうか、お前らの話が本当なら、いろいろと話が繋がんなぁ……ここ数日、雨が降り続いてるのも、見守りがまだ交代に来ないのもそのせいかもしんねぇなぁ」
オジさんは“掃除屋のダグ”と通り名を教えてくれたの、自身の名前を語らない不思議な人だったけど、私達の話を真剣に聞いてくれたの。
更に言うなら、八方塞がりになっていた私達を中心部までの案内をしてくれる事になったの。
いい人過ぎて怖いくらいだと感じ、疑う自分の心が少し悲しかったわ。
そこから、私達はダグさんの案内で細く重なった道や途中から縄ばしごで移動せねばならない道など、案内がいなければ見つけられないような複雑な道になっていたの。
ダグさんの的確な案内のお陰で、中心部に辿り着けたの。
天高く伸びた中心部の汲み上げる装置、数多くの歯車が複雑に組み込まれ、勢いよく回るロープにはバケツが数センチ間隔で付けられており、止まる事なく稼働し続けていたの。
「すごい……なんなの、これって……」
私の目の前に広がるファンタジーからかけ離れた光景に私は驚きを露にしながらも、天井まで続く芸術的かつ、緻密に組まれた歯車の神秘的な動きに目を奪われてしまっていたの。
天井を見上げる私達、しかし、ダグはその場に立ち尽くし、悲しげに天井を見上げると溜め息混じりに声を喋りだしたの。
「俺の案内は此処までだなぁ。後は少しキツいが頑張ってくれなぁ」
ダグはバケツに鉤爪の付いたロープを投げたの。
次第に上へと運ばれるバケツと鉤爪、無数の木の棒が角度を変えて配置された位置まで差し掛かると次第に傾くバケツ、そのままゆっくりとひっくり返っていく。
それを確認したダグは鉤爪にしっかりと結ばれたロープを強く引き、間違いなく引っ掛かっているのを確認する。
「少し大変だがぁ、ロープには玉が作ってある、体にしっかりともう一本の短いロープで結びつけて玉を潜らせながら登れば、最悪の場合でも勢いよく落ちる事はねぇ」
そう言い、私にロープを手渡したの。
「気いつけろよ、半信半疑だが、頑張って上さいって、国を救ってくれ」
「ダグは行かないの……」
「俺は交代が来るまで、持ち場を離れらんねぇからな、それに直ぐに元通りになるってんなら、気長に待つさ」
ダグはそのまま、来た道を帰って行ったの、ただ残念なのは私達はロープが無くても登れる事だったわ……凄くダグの親切をむげにしたような気持ちになってしまったけど、目的の中心部に辿り着けた事実に感謝ね。
メルリ、サトウ、リーヴルの三人を空間魔法へと入ってもらい、その後、足場を確かめると勢いよく、地面を蹴り宙を舞う。
私達は三日目にして、レナクルの王都に到着したの。