敵は戦神バルキュリアです5
正直、参ったわね……予想以上にレナクル王国の汚染が進んでいるわ。
王都を護るように聳え立つ壁、その側には畑であったであろう囲いが無数に存在していたの。
どの田畑も枯れ果て、黒く変色した農作物は食料として既に食べられる状態じゃないことが直ぐに理解できる有り様だったわ。
どれだけの国民が食糧難になるかと考えると悲しみで胸が痛くなるわね。
太陽を遮るように広がる黒い雲とピンクの雨が心と体を冷たく冷す感覚は不快でしかない──と、言うより不快よ……こんな誰も幸せにならない状況は大っ嫌いだわ。
怒りを感じる私の表情、そんな時、メルリが驚いたように声を発したの。
「お嬢様……! 土から小さな魔物が!」
メルリが指差す先には小さなネズミが数匹顔を覗かせていたの。
「何よ、ビックリしたじゃない? 只のネズミよ、多分、街に食べ物を求めてやって来たのね……」
雨に触れた農作物を噛った途端に吐き出し、姿を消すネズミ達。
ネズミすら、食べれないなんて……本当に世知辛いわね。
「先を急ぎましょう……ここに居ても気が滅入るだけだわ」
マップを見つめると、壁の内側に続く長い通路が表示される。
「壁の中に入る道を見つけたわ、堂々と門を通るのは諦めてたから、丁度いいわね。此方みたい」
壁にそって数分、進んだ先には水を内側に引き入れる為の水路があり、入り口には鉄格子が付けられ人の侵入が出来ないようになっていたの。
鉄格子の側に近寄り人が歩いて進める足場があることを確認する。
「これくらいの鉄格子で侵入を防ごうなんて、レナクル王国は危機感が足りないんじゃないかしら?」
素直な発言にメルリ、サトウ、リーヴルの三人が合わせたかのように首を横に振ったのが見えたわ。
「お嬢様、普通は侵入出来ないものです」
「うん、カミルちゃんが……その、かなり規格外なんだよね」
「リーヴルの御主人は常識なんて当てはまらないかな、寧ろ規格外に一票かな……」
三人の発言に心が痛いわね……取り敢えず、この痛みはバルキュリアにぶつけるとして、先ずは王都に潜入よ。
無言のまま深く息を吸い、鉄格子を両手で握り、息を吐くと同時に両手にしっかりと力を込める。
“グギギギ……ギギ……ギ……”
鉄格子が無理矢理、形を変形されるのを拒むように悲鳴をあげてるような音だったわ。
結局、抵抗虚しく、容赦なく曲げられた鉄格子は最後には根元から綺麗に折れちゃったのよね。
「あら……錆びてたのかしら? 折れちゃったわね」
そんな私から視線を軽く逸らす三人……薄情よね。
折れた鉄格子を元通りに魔法で直し、気持ちを切り替えて、水路の中を光魔法の輝きとマップを頼りに進んで行ったの。
水路の中は意外にも人の手入れが行き届いていたの、煉瓦で作られた壁はカビ1つなく、藻や小さな雑草に関しては、人為的に抜かれている跡が幾つもあったわ。
水路の入り口から内部に進むにつれて次第に迷路の様に道が複雑に別れ始めたの、マップの先を調べていて気づいたのは中心部に水を汲み上げる為の空間が存在している事、それと同時に中心部に繋がる道が存在しない事実だったの。
戻るにしても意味がない事実と地上に向かって出口を作るにしても、確実に人目につく事実に八方塞がりとしか言えない状況になってしまったの。
マップを一度、最初から見直す私、そんな時だったわ。
突然、眩しい光が私達に向けられたの。
「お前達! 此処で何をしている!」と、水路に怒鳴り声が響いたの。