敵は戦神バルキュリアです1
【ワルキューレ艦隊】が完全に沈黙すると同時にデンキチと私は左右に別れて船体に大きな穴を作る。
巨大な船体は次第に傾き、次々に天を見るように真っ直ぐに上を向くとその姿を海底へと消していったわ。
無数の波が起きるとソルト達は波に抗うように私とデンキチの元に舵をきったの。
「カミル! 大丈夫か!」
沈み行く最後の【ワルキューレ艦】を間近にソルトの声が漆黒の海にこだまする。
「大丈夫よ、少し派手に遣り過ぎたけど。私達の勝利よ」
天を指すように真っ直ぐに立った沈み行く船の先端から笑顔で手を振る、ソルトはそんな私に驚いていたみたいね? 顔が少し引きっているように見えるわ。
ソルトの船に合流した私はデンキチを回収して、海賊艦隊と島に戻る。
島ではメルリとリーヴルが怪我人の治療を慌ただしく行っている真っ最中だったの。
「メルリ、私も手伝うわ。何処からかしら」
「お嬢様、では彼方からでお願いします」
額に汗を流しながら、真剣な表情で次々に怪我人を治療する姿はまるで本当の医師のようにみえるわ。
幸いだったのは、怪我人の殆どが軽傷や外傷のみ立ったことね。
火傷にしても軽度の傷だったのが本当に奇跡だわ。
全ての治療を終わらせた後、怪我人の看病と船の都合を理由に海賊艦隊の半数が怪我人の海賊達と島で待機する事になったわ。
用意を整えた私達がレナクル王国に再度向かう際にソルトが古い海賊専用の侵入通路の存在を教えてくれたの。
「レナクル王国の端になるが、俺らのじい様の、じい様が使っていた古い通路があるんだ。其処は外の島から本土まで海底の地下通路で繋がっている。それを使えば本土に入ること事態は容易だろう」
「そんな物がなんであるのよ? アンタ達ってレナクル王国と信頼関係にあるんでしょ? まるで隠れて潜入する為の物みたいな、言い回しね?」
釈然としない顔を浮かべるとソルトは力なく微笑みを浮かべる。
「レナクル王国って国は、今みたいになるまで、大きく歪んだ国だったのさ、神を崇める者は善とされ、神を理解しないものを悪とした……俺達みたいな海賊からすれば、陸地の神様なんてのは信じるに価いしないってのがお決まりの文句でな」
「つまり?」
話な流れを予想しながらも、ソルトにそう訪ねる。
「嗚呼、海賊とレナクル王国は敵対したさ、何代もそれが続いていたんだ、気づけば神の奇跡なんてのは遥か昔の世迷い言、お伽噺みたいなもんになってるが、じい様達は言ってた。“戦神は邪神でしかない”ってな」
そう、レナクル王国は遥か昔、戦神バルキュリアを国を護り栄えさせる神として信じていたの、戦神バルキュリアが居なくなってからも、その蟠りは無くなることなく代々受け継がれ、サンデアが女王となり、ソルトが海賊総頭になった今の代で和解し、今のレナクル王国が誕生したと言われたわ。
バトラング王国の問題だけじゃなく、レナクル王国にまで害をなす戦神バルキュリア、本気で何とかするしかないわね。