目指す先──レナクル王国3
船出の用意が整いメルリとサトウと共に小型の船へと乗船する。
小型船といっても数人のバイキングが必要になる大きさの船よ。
しかし、レナクル王国にバイキングを連れて潜入するわけにいかないわ。
今回は普通に港から上陸するつもりはないの、本当にレナクル王国がバルキュリアと手を組んでいたり、それと変わらない状況だとするなら、正面から向かうのは時間を無駄にするだけになるもの。
バトラング王国の港でデンキチを召喚し、ジュレとクラブスパイダーに編んで貰った特別製のロープを渡したわ。
『デンキチ、頼んだわよ。船をレナクル王国まで、引っ張ってて』
えっ! と言う渋い表情を浮かべるデンキチ。
『いきなりだよ。ヒトデ使いが荒いなぁ』
『なにいってるのよ? ブラック企業だったら、もっと酷い使われ方してるわよ? それにデンキチが一番力持ちで頼りになるのが理由なんだか』
少し照れくさそうに頬を染めるデンキチ。
『もう、仕方ないなぁ』
私達の会話が理解できないメルリとサトウが心配そうに見つめる中、デンキチはうなづき、ロープを引っ張りだしたの。
「やっと出港かよ、待ちくたびれたぜ」と少し生意気な聞きなれたら声が私の耳に入ってきたわ。
デッキに置かれた複数の樽の一つに猫の姿で寝転んでいるビルクの姿があったわ。
「あんた、なにしてんのよ?」
「簡単だろ? 今回は、あの海賊とギルグが相手になるかも知れないんだぜ? 召喚されてからじゃ、お前を守れないからな」
ビルクはそう言うと体を縮め、私の肩に飛び乗り、フードの中に入っていったわ。
本当に自由なんだから、でもビルクなりに心配してくれてるのね。
船は順調に大海原を進み、次第に加速していく。
文句を言っていたデンキチだったけど、凄く楽しそうに海水の中を泳いでいるのが見ていて分かる。
レナクル王国までの距離は大体、普通の船なら一週間程になるわ、ただバトラング王国の船なら更に一日、二日くらいの短縮は可能になる筈よ。
デンキチの移動速度なら三日か四日でレナクル王国に入れる筈だわ。
すべてを考慮してシュビナ指揮のバトラング王国軍が動き出すのに、最低でもあと三日、更に移動が早くみて五日ね。
合わせて八日だけど、私達の到着までに四日掛かるとすれば、残る日にちは四日しかないわ。
初日に潜入したとして、レナクル王国で女王サンデアに上手く辿り着けるかが鍵になるわね。
それとレナクル王国は魔力と建築物の発達した国だから、バトラング王国と違い、魔導士や魔法使い、魔術師の多い国でもあり、海賊達が海軍として国に協力している国でもあるの。
海軍であり、海賊でもあるキャプテン・ソルトは油断できない相手なのは間違いないわ、【魔神ビルク】並ぶ【魔神ギルグ】の存在ね。
キャプテン・ソルトとギルグのコンビに以前負けそうになったことも踏まえれば、レナクル王国の海軍は一筋縄じゃ倒せないと言う結論が自然と頭に過るわね。
バトラング王国とレナクル王国の海域の境目には二日もあれば到着するわ。
先ずは海域に見えない壁が本当に存在するかを確かめないと、今回ほど嫌な予感のする船旅はないわね。