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涙がいっぱいです

 病院に向かった私達を見つめる嫌な目線……明らかに田舎者を見るようなその視線は私に向けられている。


 王都の人々は、まるで西洋の貴族のようにヒラヒラの如何にも金持ちと言った出で立ちの者が目立つ。

 正直……不快だわ。


 そんな思いを表情に出しながら病院に着くと直ぐに病室から中庭にメグを連れてきて貰うことにした。

 中庭の大きな樹のしたで誰も近くに居ないことをマップで確認してからメグを1度パーティー扱いにして状況を確認する事にした。


 メグの身体には呼吸器系の病気が幾つかあり、気管と肺に症状が激しく現れているのがマップの状態確認でわかった。


 私は医療の知識は本で読んだだけであり、実際に職業(ジョブ)として手に入れられていない事実から、本当に蜂蜜を渡すべきなのかを悩んでいた。


「メグさん……あの……」


「カミルちゃんだったわね? ナッツから話は少し聞いたわ。不思議な蜂蜜の話は凄く楽しかったわよ」


 私にそう語るメグはカッシュとナッツを本当に心配していた。

 そんなメグは元々身体が丈夫な方ではなかったと教えてくれた。だからこそ、カッシュと出逢い二人で始めた飲食店が楽しかったと笑い、ナッツが産まれる時も自身の命をかけた難産だったと私に思い出を話してくれた。


 私には妊娠の経験がないので、不思議な感じ。でも、メグを助けてあげたい。


「メグッ! じゃなくてメグさん、まだ本当に治るかわからないけど、蜂蜜を食べてみて貰えませんか」


 正直に言うなら凄く嫌な気分……治るなら直ぐにでも食べて欲しい、なのに怖い……もし食べても何も起きなかったら、あの日、配った分だけが万能薬のようになってしまっただけだったら……そう思うと心臓を掴まれたような気持ちになる……


「メグでいいわよ。カミルちゃん、私は色んな薬を試したわ、だから気にしないで、私も食べたいのだから、笑って蜂蜜をちょうだい」


 メグの言葉に自分がどんな顔をしているかに気づかされた、病人の前で私は最低だ。


 よし、私は出来る事をする。


「メグ、少し待ってね」


 アララに直ぐ念話でお願いをする事にしたの。

 頼みはクイーンへの伝言だ。

 クイーンに頼んで蜂蜜を数種類、用意してもらった。

 召喚でクイーンを呼び出した私は蜂蜜を受け取ると何の蜜から作ったのかを確認した。


『此方は果実、此方は野花、此れが……』


 次々にクイーンが蜂蜜の種類を説明していく。これ程、蜂蜜に詳しい強い味方はいないわね。


「ありがとうクイーン。お陰で秘密が少しわかったわ。お留守番、宜しくね」


『カミルも頑張って、あと早く帰ってきてね。皆待ってるからね』


 最後にモフモフのクイーンに抱きつき、別れを惜しみながらも森へと返した。


「メグ、これなんだけど……食べてみて」


 私はメグにスプーン一杯の蜂蜜を取りだし、渡そうとする。

 そんなスプーンを持つ手は震え、必死に自分の手を押さえようと力むと更に震えが止まらなくなる……そんな私の手を優しくメグが握ってくれた。


「カミルちゃんありがとう。ちゃんと受け取ったわ。いただきます」


 その言葉と笑顔は私の不安など、まるで気にしないと言わんばかりに、優しく向けられていた。

 口に運ばれたスプーンから蜂蜜が無くなるとしばらくしてから、メグが大きな深呼吸をしたのだ。


「ふぅ、こんなに深く空気を吸い込んだのは何年ぶりかしら、凄く……凄く嬉しいわ……本当は諦めてた……無理だって思ってた……ありがとうカミルちゃん。本当になんて言っていいか、ありがとう」


 泣いていた……いっぱいの大粒の涙がメグの膝掛けを濡らしている……私もつられて泣きそうになってしまった。涙もろいなぁ……私。

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