光の矛先……永遠をなくす者です8
リーヴルはアララの存在を【敵】として認識すると先程まで感じなかった凄まじい魔力を全身から放ち、威嚇するように魔力を次第に巨大な黒い影に変えていったの。
「あ、あの……私、急用が出来たので失礼します!」
「逃ガサナイわ……」
そう言い、アララが羽根を広げ、逃げようとした瞬間、室内を黒い影の壁が覆い、四方の壁と入り口が影に飲み込まれたの。
予想を遥かに越える魔力に私は驚きながらも、ある違和感を感じていたの。
私の眼に写るリーヴルの姿が次第に薄くなっていくように見え、影を操るリーヴルの手を見た瞬間、爪の先がゆっくりと霞み、次第に塵になっていくように見える。
直感が声をあげたわ──このままだといけない!
「アララ、残念だったわね、でも……お陰で取り入る隙が出来たわ!」
駆け出しながら、片手に解除魔法を作り、その上に防魔魔法の層を作り、更に解術魔法を重ね、もう片方の手には、防魔魔法をシールド型の形状にして発動する。
私の存在を危険視したリーヴルは標的を変更し、影を一斉に此方に向けてきたの。
その瞬間、勝敗の行方を悟ったわ、影は私の動きについてこれない程、鈍りきっていたの。
「……っ……ハァ……ハァ……逃がサナ……ハァ……」
リーヴルの全身が次第に崩れ始めると、私は防魔魔法のシールドを大きく広げ、自分とリーヴルを包み込み防魔魔法を球体に変化させたわ。
「……ナンの……ツモリかな……」
既に半壊と言っていい程、崩れ出さしていたリーヴル、楽しそうに笑みを浮かべていた表情は、まるで人形のように無表情となり、その瞳には悲しみ……かしら、涙が浮かんでいるように見えたわ。
戦いたい訳じゃない……倒したいんじゃない……助けたいんだ!
「リーヴル、よく聞きなさい! 先代魔王がどれ程に凄かろうが、私は遣るべき事をやるわ! いつまでも聞き分けないこと言ってないで……話を聞きなさいッ!」
球体の中で逃げ場のないリーヴルは眼をゆっくりと閉じると、微かに口元を緩めたの、全てを諦めたように作られた笑みは悲しさと喜びに満ちたものに感じる。
悪いけど、そんな顔は大ッキライなのよ!
「ハアァァァァッ!」
「有リ……ガトウ……カミ……ル」
私の腕はリーヴルの心臓部分を貫くように伸びていたわ……そのまま、リーヴルが消滅しないように防魔魔法で解除魔法とリーヴルの本体に膜を作りあげる。
「リーヴル、少しだけ我慢してね。直ぐに楽になるから」
反応のないリーヴルの首が微かに頷いて見えた瞬間、心臓部にある魔本をゆっくりと引き抜く。
魔本とリーヴル本体が切り離されぬように慎重に取り出された魔本は表紙が黒くなり、至る箇所にキズが刻まれ、今にもバラけてしまいそうな見た目をしていたの、正直、形を保っているのが不思議な程の状態だったわ。
優しく魔本を開き、指先に魔力を慎重に込め、静かに文字を書き記す。
【魔本の名を正式にリーヴルとする】
【所有者の変更──リーヴルの所有者はミルシュ=カミルとする】
【魔王としてミルシュ=カミルの魔力の一部をリーヴルに与える事を誓う】
書き記した文字に再度、魔力を注ぎ込み、私の魔力がリーヴルに流れ込んでいくのを確認する。
単純に見えるこの一連の動作に私は全神経を集中する──魔力を注ぐ際、まるで針で開けた穴に一滴、一滴、水滴を垂らしていくような感覚に私は震えたわ。
先代魔王はこの作業をゼロから成し遂げたのだと、思うと本当に頭が下がるわ。
どれ程の時間が流れているのだろうか……感覚と現実の境目で魔力を注ぐ私を次第に大きな渦が包み込んでいくような幻覚が襲い出していたの。
《汝は何者か……我が魔力と重なりし汝は何を望む》
確かに声がする。年老いた老人を思わせる声はそう私に尋ねてきたの。
「私は……リーヴルともっと話したいだけよ! 貴方が先代魔王の魔力なら、話を聞いて、このままだとリーヴルは消えてしまうわ! それが嫌なのよ」
《生きる全ての者には存在する理由と役割がある……役目を終える存在を更に生かし続けるわ、今生きる者の身勝手であろう? 終わりを受け入れよ……我が魔力とともに朽ちるが魔本の運命であり、役割である……》
話にならないわね……
「先代魔王だから、敬意をこめて話し合いにと考えたけど、やめたわ! 貴方は一人で消えたくないだけじゃない! リーヴルは私が責任をもって私が貰い受けるわ!」
…………
……
《この……愚か者がッ! 我が魔力で造り出した創造物を貰い受けるだと? 身の程知らずが!》
話し合いは既に終わっているわ、つまり、先代魔王の話は無視よ!
「五月蝿いって言ってんのよ!」
私は全ての神経を研ぎすまし、魔力を注ぎ込む……先代魔王の魔力を塗り潰し、更に其処から自身の魔力が覆い尽くしていくようにイメージを膨らましていく。
《や、やめよ! キサマ……我は魔王……やめよ! やめよォォォォ!》
「アンタの名前なんて、興味ないわ! ついでにアンタの肖像画も私に負けたんだから、灰にするわよ」
《あ、悪魔……》
「違うは私は大魔王の召喚師よ」
全てが終わると同時に私の意識は途切れ、目の前が暗闇に覆われたの……
「……ル、カミル……目が覚めになったかな?」
目覚めた先はプニプニの膝枕の上だったわ。
「リーヴル……無事だった見たいね……何か小さくなってない?」
私の知るリーヴルは見た目は18才くらいであったが、膝枕をしているリーヴルであろう少女はどう見ても10才前後にしか見えなかったの。
「よくわからない、カミルの魔力で満たされたら、体が縮んだ……多分、魔力の影響かな?」
そう言いながら、私の頭を撫でる、リーヴル。
「今日からヨロシクだよ。カミル」
私はリーヴルの所有者として認められたみたい……ただ、何故かしら、お姉さん風を吹かされてる今の状況が少し悔しいわ。