光の矛先……永遠をなくす者です5
久々のデンキチの肩の感覚、懐かしい座り心地だったわ。
『どうかしたのぉ? カミル、大人しいと不気味』
大きな眼が私の方を向き、仕返しが来るだろうと口元に“グッ”と、力を込めるデンキチ。
「酷いわね……まあ、実を言うと……」
今の状況を説明する。
『ヌハハ、普通、魔力使いきらない。カミルやり過ぎ! 気を付けないと危ない』
「危ない?」と私はデンキチの声を聞き、首を傾げる。
『魔力無いと戦えない。危ないが増える、カミルが危ないと心配だよ』
私はデンキチの言葉に少しだけ、心が暖かくなったわ。
「……っ……えっと、心配してくれて、ありがとう……」
なんとも照れくさいわね……。
そんな私はデンキチと共にマドラッド城の図書室へと辿り着いた。
街中を駆け抜ける際に、いろんな人に名前を呼ばれ、すごく驚いたの。
でも、マドラッドは大いに賑わい、活気と笑顔が溢れていたわ。
私は図書室へ向かい、デンキチは城の外で昼寝をする事になったの。
『カミル、しっかりと知識を蓄えてね。約束だよ』
「ええ、ありがとう。あ、あとこれ、お小遣いね。お金を払わずに食べ物を食べちゃダメよ!」
デンキチにお小遣い程度の額を渡す。
『オコヅカイ?』
デンキチの中で知らない言葉だったのかも知れないわね、考えてみれば……お小遣いと言う制度が此方の世界では“手間賃”や、買い出しの際の“駄賃”となるらしく、どちらも働いた際に渡される労働賃金のようなものね?
「私を運んでくれたデンキチに感謝の気持ちよ。今回は特別ね」
デンキチは眼を輝かせて喜んでくれたわ。
私は目的を果たす為に図書室へと向かい、大きく立派な扉をその手で押し開けたの。
大きな窓が並び、本棚にはレースのカーテンが付けられている、魔王の図書室とは思えない程、明るい作りと見た目に心が高鳴ってしまったわ。
図書室に入り、辺りを見渡していると “あら?” と不思議そうな声が私に向けられる。
「人の言葉が共通だと助かるんだけど、貴女は迷子かしら? と言うより言葉が通じるかな?」
明らかに迷子と勘違いされているわね……マドラッドで迷子と間違われたのは初めてだわ。
「あの、私……」と喋り出そうとすると声の方向には既に声の主の姿は無かったの。
首を傾げると、背後の机に“トン”と音がなり、近づいて見ると一冊の絵本が置かれていたの。
「な、ハァ……あれね。私の見た目から判断されたのね……まぁ、あるあるだわ」
溜め息を吐いた瞬間、背後から声がする。
「ごめんなさい? 絵が可愛くなかったかしら?」
振り向けば姿を消すと予想したので、そのまま背を向けて私は語る事にしたわ。
「絵はとても綺麗よ。ただ、私は本を読みにきたの」
「字が読めるの? なんの本を読みにきたのかな?」
姿の見えない存在との会話、まるで絵本の世界に出てくる妖精やお化けと話してる気分だわ。
「探してるのは、回復魔法の書物よ。あと今から振り向くけど、消えないで欲しいの……自己紹介するわ、私はカミル、ミルシュ=カミルよ」
振り向いた先に居たのは透き通るように白い肌、青いスカート姿に白いブラウスを着た清楚な小柄の女性だったの。
「聞いたことあるような? 私は【リーヴル】図書室の管理を任されているわ」
振り向き名前を教えても、知っているか曖昧な返答をするリーヴル。
それでも、私が読みたいと口にした回復魔法を記した書物を複数用意してくれたの。
驚いたのはリーヴルは姿を消すと次の瞬間には本を手に持っていると言う事実ね。
私からしたら、魅力的な力だわ。
運ばれてきた図書室の書物を【暗記者】などで速読することはせず、ゆっくりと時間をかけて読むことにしたの。
その間、私は読書をしながら、リーヴルとの会話を楽しみ、時間はゆっくりと過ぎていったわ。
図書室に来てから、どれくらいの時間が過ぎたのだろうか、外は夕焼けが広がり、鳥達の声が寂しげに鳴り響いていたわ。
「そろそろ、行くわ。リーヴル、今日はありがとう。とても素敵な日になったわ」
「こちらこそ、また何時でも来てね。次はもっと、いっぱいお話をしたいから」
互いに微笑み、挨拶を終えると外で寝ているデンキチの姿を窓から確認する。
デンキチと合流した私は、ペンネ達の待つ、巨大要塞アザラシ【ビッグアザー】の元へと向かったの。
「デンキチ、今日は凄く楽しい一日になったわ、でも、ずっと図書室にいたからお腹すいたわね」
『デンキチも、お腹すいた!』
笑いながら帰りを急ぐ私達、小さな幸せと出会うのは本当に素敵だわ。