涙はいつか実るものです10
朝食の食材を集めるつもりが森の現環境の強者を根こそぎ食材として狩り尽くすと言う結果に私自身も言葉を失っていたわ。
そんな最中、合流した、ガレオン達にペンネは楽しそうに目を輝かせるとある命令を口にしたの。
「今から妾達も出店をやるぞ! これだけの食材があれば朝食を済ませても御釣りがくるからのぉ」
いきなりの発言に私は驚き視線を向ける、楽しそうな笑みを私に見せるペンネ。
「本当に大丈夫なの? 流石に今から食材を調理するにしても、誰が調理するのよ?」
当たり前だけど私は職業に【殺人料理人】が有り、料理に直接触ることができない。
サトウとメルリは【バトラング王国】に待機してるし、カッシュを今から呼んでくる訳にもいかないわ。
状況を見れば食材はあれど、出店が出来るようには見えないわ。
しかし、ペンネの表情は自身に満ち溢れていたわ。
「ガレオンよ。主ならば全ての肉を問題なく捌けるであろう。ヒルバー、主の腕前を存分に振るうがよい! 今より2時間後に店を構える、各々がマドラッドの誇りを持ち、最高の日にするよう心がけよ、良いな!」
『『『へいッ!』』』
ガレオンが食材を次々に捌き始める中、私はその場に仮設の調理場を作製魔法で作る。
ヒルバーが自身の鞄からエプロンを取りだし、自前の包丁を軽く研ぐ姿は普段、煙草を口にしている姿からは想像できない程、厳しい表情に見えるわ。
「どうじゃ? ヒルバーのあの表情には驚くじゃろ、アヤツは参謀でありながら、元は料理人でなぁ、才能の塊みたいな存在なのじゃ。マドラッドの料理人の中で奴ほど熱意のある者を妾は知らぬからな」
ペンネの言葉がそのまま形になるように、仮設の調理場を使い始めるヒルバー。
串焼きから始まり、小麦粉を水で溶いて薄焼きにした生地に焼いた肉と果物を巻いた“トルティーヤ風”──玉ねぎをすり下ろしたソースを使った“ディアボラ風”の焼き物が次々に作られていったの。
腕前を確かめて欲しいと言わんばかりに並んだ料理はデンキチ達にも大絶賛だったわ。
デンキチの私は村長の元に直ぐに向かい、出店の許可を強制的に貰い、直ぐに作製魔法で店を構える事にしたわ。
ヒルバーが選んだ出品料理は【点心】のような食物だったわ。
魔獣の肉と野菜、フルーツをミンチにして混ぜ合わせた餡を餃子の薄皮より大きめの生地に包み、蒸しあげれば完成となるわ。
2時間の準備時間で此ほどの間に作るなんて凄すぎるわ。
出店が開始して、直ぐはやはり、御客は来なかったわ、マドラッドの魔族であるヒルバーの料理を皆が怖がったの……
そんな中、祭りを訪れていたライパンからの御客さん達、既に魔族に見慣れており、マドラッドの料理をしる人々が並び始めると今まで暇だったのが嘘のように長蛇の列が出来上がっていったの。
蒸しあげる度に立ち込める、生地と餡の香りは食欲をそそるわ。
包みには、笹のような香りがする大きめの葉っぱをジュレに作ってもらい、なんちゃって中華が花開いた感じね。
祭りが終わるまでに用意した食材が全て無くなり、ヒルバーも疲れきった様子だったわ。
「ヒルバーやるじゃない。凄い才能ね」
そう言うとヒルバーは不思議と涙を浮かべたの。
「カミル様、俺は自分が人間の……いや、全ての種族に「美味い」と言われる料理を作るのが夢だったんだ、いつしか忘れてたが……今日は最高だ」
ヒルバーの言葉に私は優しく頷く。
言葉よりも、ただ頷く方が良いときがある。
ヒルバーの喜びの涙を目の当たりにして、私は自身の行動が今に結び付いた事実を感じていたの、傲慢な考えだと思うけど、全種族が笑顔になる世界は作れなくても、私達が少しでもいい世界に出切ればと感じたわ。
そうして、アマト村の祭りが静かに終わりを迎えたの。