涙はいつか実るものです5
実力の差、天性の差、経験の差……どの言葉を使おうと1つ言えるのは、ペンネとタウリでは、全てが違いすぎるの。
それでもタウリは、がむしゃらに剣をペンネに向け続けたの。
「っ……ハァ……ハァ……ちくしょう、当たらねぇ、逃げ足は流石に魔王様だな」
タウリの精一杯の言葉、一時間以上続いた一方的な展開に呆れ果てたペンネが前に踏み出すと、既に目で動きを追う体力すらないタウリに一瞬で近づき軽く指を弾いたの。
吹き飛ばされたタウリの額に真っ赤な指の痕が刻またの。
「命あることを喜ぶがよい、カミルの兄でなければ、今までの発言は死を意味していたであろうからな?」
…………終わったみたいね?
「……けるな、ふざけるなよ……俺から大切な妹を奪ったんだぞ……」
その言葉を耳に再度近づくペンネ、すると呆れながらタウリに語りかけたの。
「妹を思うか、傲慢な自己満足じゃな、貴様がどれ程にカミルを大切に思っているかは察してやろう、しかし……カミルの人生はカミルの物じゃ。過保護も大概にせよ」
ぼろぼろのタウリと無傷のペンネ。
「……俺は」と口にしようとしたタウリ、それを言わせまいとペンネが口を開いたの。
「兄ならば、今の状況を冷静に見るがよい。自信満々の靄で曇った眼も今ならば透き通ってみえるであろう」
周囲が夕暮れの輝きに包まれ、日が沈む寸前の眩い光に照らされた私をタウリが見つめる。
私は多分、複雑な表情を浮かべて居たと思う……大切な二人の争う姿、止められないもどかしさに困惑してたんだと思う。
「あ、そうか……ははっ……カミルのあんな困った顔を見たのは……多分、初めてだ」
「少しは学習したようじゃな? 考えや行動は違えど、貴様も妾もカミルを思う気持ちはかわらぬ。と、言うことじゃ!」
タウリとペンネは互いに笑っていたわ。
それからペンネが手を伸ばし、タウリを起こしたの。
「さて、タウリと言ったな? まだ動けるならば、同行するがよい。今より前夜祭を楽しむつもりじゃからな」
「え、いや……俺は」
「マドラッドでは、勝者が酒を振る舞うのが礼儀であり、全ての終決となる。よいから付き合え」
複雑な表情のタウリ、そんなタウリの事など知らぬと言わんばかりにペンネは強引に胸元を掴みタウリを引っ張って行ったわ。
前夜祭が行われる広場に辿り着くと、アララが誰かと会話をしながら、トウモロコシをかじっていたの。
いきなり、居なくなったと思えば、本当に自由神なんだから?
「あ! カミル~このトウモロコシ凄く甘くて美味しいんですよ」
トウモロコシを片手に手を降るアララ。
その横から、私を見て頭をさげる少年。
髪がおでこより下まで伸びた見るからに大人しそうな少年、身長は私よりやっぱり高い……フードを被った姿、腰には魔導士の使うブックホルダーをぶら下げているわね。
「お久しぶりです。カミル御嬢様」
え、私を知ってるの?
私の表情に慌てて、フードを取る少年。
「僕ですよ。カミル御嬢様」
フードを取り、少年が髪を持ち上げると私は驚きの声をあげてしまったわ。
「ナッツじゃない! なんでアマト村に居るの、それより久々ね、元気してたの」
「あ、はい。今はタウリに誘われて、外泊届けを学院に提出して、アマト村に来ているんです。ただ、いきなりタウリが「カミルの気配がする!」と走り出してしまって、アララさんとさっき偶然お逢いした感じです」
ナッツはそう語り、笑みを浮かべる。久々の里帰りはまるで同窓会のようになってしまったわ。