涙はいつか実るものです1
突風のような凄まじい一撃、吹き飛ばされたレイト。
咄嗟に扉を開いたシシリさんもその威力に目を丸くさせていたわ。
「キッシュ? そんなに強く吹き飛ばしたら扉にぶつかるわよ」と冷静さを取り戻したシシリさんが声に出したの。
「そん時はあのバカたれにキッチリと扉を弁償させるだけじゃ!」
じい様……理不尽の塊ね。
取り敢えず、レイトは大丈夫かしら? 流石に心配ね。
外に出るとレイトは大きな木に背中を打ち付ける形で倒れていたの──本当にやばそう……
「ねぇ、だ、大丈夫?」
心配になり声を掛けるとレイトは私に手を伸ばし、小さく呟いたの。
「カミル、ほっぺにチュウしてくれ……そうじゃないと痛くて死にそうだ……」
私の中で何かが噴火するように爪先から怒りの炎が上がっていったわ。
「───本当に心配したのに……パパのバカ! 大ッ嫌い、そのままいっぺん、死んできなさいッ!」
止めの一撃と言うなの“大嫌い”発言にレイトは沈黙したわ。
まったく、本当にどうしようもないんだから。
呆れる私の横で怒りを紫の炎に具現化させたペンネがレイトの人生を本当に終わらせちゃいそうだったので仕方無く許してあげる事にしたの。
それからレイトをペンネが“優しく叩き起こし”本題に入ることになったの。
「じい様、シシリさん、実は相談なんだけど……呪いについて詳しく知りたいの」
そう口にした瞬間、じい様の目が鋭く私に向けられたの。
「カミル。儂はお前が人を呪いたいほど恨む性格には思えないが、何の為に“呪い”などと言う邪法に興味を向ける。返答次第で儂はお前と本気で向き合わねばならなくなるぞ!」
じい様から全てを丸飲みにするような威圧感が漂う。
そんな中、シシリさんが軽く──“パン、パン”と両手を重ねるように叩き、じい様に優しく声を掛けたの。
「キッシュ、昔から貴方は急ぎすぎよ。こう言う時はもっとリラックスして話をする方が上手くいくのよ?」
「ふん、そんな事で時間を無駄にできるか! カミル、今すぐに訳を話せ。取り敢えず話を聞いてからどうするか決めるとしてやる!」
叱るのを前提に話が進んでいるのがツラい……! と、そうじゃなかったわね。
私はアフロディアスの花について説明をしたの──勿論、神の力で作られた呪いに対する解除方があるとは思えないけど、ヒントだけでも手に入ればいいと考えていたわ。
話が進むにつれて、シュビナの存在が露になるとレイトは案の定──不機嫌になってしまったの。
「俺はそんな奴にカミルをぜったいに渡さないからな!」
レイトがそう口にするも──私はそれをしっかりと聞き流す。
じい様とシシリさんが幾つかの【解術魔法】と【時間軸の凍結解除の禁術】を教えてくれる事になり、時間が少しづつ過ぎ始めた頃、アララが声をあげて怒り出したの。
「カミルーー! 早くしないと村祭りが始まっちゃいますよ」
子供のように駄々を捏ねる姿は本当に頭が痛くなるわ。
「アララ。今回の目的はアフロディアスの花を咲かせる事にあるのよ!」
「花なんか、“いつでも簡単に”咲かせられます! そんな事よりも村祭りは年に一回なんですよ!」
……ん──いつでも簡単に?
その発言に視線が一斉に向けられると気まずそうな表情を浮かべるアララ。
そして、逃げ出したの……!
「あ、待ちなさい!」
声に振り向くも外に飛び出し羽を広げるアララ。
そんなアララを上手く逃がそうと一人の男が私達の前に立ちはだかったの……まあ、レイトなんだけどね。
「お父さんは絶対に恋愛も結婚も認めないからな!」
レイトは泣いていたわ……相当ショックだったのね……