ダメな大人の見本なんですが?
私達から配られた蜂蜜漬けの果実。
その名も『ハニーフルーツ』私の考えた最高の目玉商品よ。まぁ……果物を蜂蜜に漬けただけなんだけどね。
恐る恐る果物を口に運ぶ村人達、そんな姿に私は自身で先に一口“パクり”と口にした。
「やっぱり美味しい~ふぁ~」
私から溢れる至福の笑みと蜂蜜と果実の甘い香りに村人達の喉が“ゴクリっ”と鳴り微かに動き始める。
一人の少年が木陰から此方をじっと覗いている事に気付いた私は透かさず立ち上がり、少年に駆け寄った。
少年は見るからにボロボロの服を着て所々が破けており、顔も体も泥に汚れていてとてもお金を持っているようには見えなかった。
「まだ渡してないわね。はい。食べてみて美味しいわよ」
私は手に持った小さな木で作った受け皿に乗せた蜂蜜漬けを器ごと少年に手渡した。
「い、いらない……俺、お金ないし……食べても買えないから!」
その言葉に私は驚いた。
目の前の私と同じくらいの子供が此処までハッキリと断るなんて予想外だった。
「うん。買わなくて良いわ。取り敢えず食べてみて。皆に配ってるの」
再度、私を見詰める少年に優しく頷くと少年が嬉しそうに果実を口に運んだ。その瞬間、少年が目を見開き丸くするそして大声をあげた。
「うっまいッ! 何これ」
少年が木の器に残る蜂蜜まで指で拭い食べ終わると其処には先程まで金銭を気にしていた暗い表情は無く明るくホッとした幸せな表情があった。
「どうよ! 私の蜂蜜漬けは美味しかったかしら」
「うんッ!」
そんな少年を見ていた村人達は次々に蜂蜜漬けを口に運んでいく。そこからは幸せの連鎖反応になった。一人また一人と幸せな笑みを浮かべていく。騒ぎを知り、村中の人達が次々に私の前に並び列を成していく。
私の考えは最初に無料で蜂蜜漬けを配り味を知ってもらう。この世界では余り一般的な方法ではない。その為、最初は食べたら金を取られるんじゃないかと村人達が不安になっていた。でも、私が少年に蜂蜜漬けを渡す姿に本当にタダなのだと分かり口にしたらしい。
正直悲しいわ、みすぼらしい少年が食べれるならと言うのが理由なんて……ハァ、イヤだイヤだ!
そんな私の周りには村人達の笑顔が溢れていた。
全員に配り終わると私達はヘトヘトになり村に一泊する事にした。
宿を探す私達の元にあの少年が走ってきた。
「あ、あの……これ!」
少年がポケットから取り出したのはクシャクシャになった。※1000ロンドであった。※1ロンド=1円
「何これ? お金はいいわよ? 今日は無料で配ってるから」
それにこの子からしたら間違いなく大金よね? いくらなんでも貰えないわ。
「違うんだ……俺の分じゃなくて、父ちゃんの分を売って欲しいんだ!」
ん? なになにっ! 凄い険しい表情じゃないのよ?
「なら、お父さんにもあげるわ。連れてきて」
しかし、少年のグッと唇を噛み締めるような表情を浮かべていた。私は不思議に思い聞いてみることにした。
「お父さん来れないのかな?」
「父ちゃん、木こり何だけど……足を怪我して動けないんだ……医者にも行けなくて、毎日元気無くて……だから!」
私は広げていたシートを畳み、空間魔法を開き中にしまった。
「今の何! 敷物が消えた!」
あ、そうだった最古の魔法で今は出回ってない魔法だった……あんまり人前で使うべきじゃないんだった。
「ハァ……今のは空間魔法よ」
「魔法ッ! 君、魔法使いなの! なんて魔法なの!」
質問攻めになりますよね……ハハハ……名前なんて決めてないし……よし!
「今のは空間魔法よ。皆にはないしょにしてね。それより、案内してくれる?」
私の言葉に少年が『えっ?』と小さく声をあげた。
「私は今日は無料の気分なのよ! だから案内しなさい。あなたのお父さんにも蜂蜜漬けをあげるからさ」
私は優しく微笑み少年はその言葉に泣きそうな表情で笑った。
私の言葉にタウリが少し不安げな表情を浮かべたが、私はそんなタウリを一括した。
「来たくないなら構わないわよ。一人で宿を探しなさいよ? 私はこの子に付いていくし」
タウリの根負け……私達は少年の後を付いていくと小さな家に辿り着いた。
木で作られたウッドハウスと言うべきだろう。
少年と中に入ると室内はゴチャゴチャで、あれ放題だった。
「何これッ!」
私は他人の家の中で大声をあげてしまった。
「うるさいなぁ……誰だ!」
奥の部屋から姿を現したのは髭面の大男だった。
たぶん? この子のお父さんよね?
私の前に現れた大男は足を引き摺り手には酒瓶と言うスタイルで髪の毛はボサボサの髭面、更に既に酔っぱらっている。
まさにダメな大人の見本のようだわ。取り敢えず蜂蜜漬けを食べさせて帰ろうかしら……




