思いの先にです5
意識が戻ったとは言いがたいシュビナの目覚めはディーラを含む魔獣達に動揺を与える結果となったの。
「ガ……ミル……どこ……だ……」と途切れ途切れに語るシュビナ。
何故か私に凄く怒ってるような声のトーンね……
ゆっくりと私に近づくシュビナ、そんな姿を目の当たりにして、私は逃げるなんて出来なかった……
しっかりとシュビナを見つめ、私は一歩前にでる。
「シュビナ! 私は此処よ」
ふらつきながら、私に近づくシュビナに私も一歩、また一歩と歩み寄る。
その光景にディマが声を上げる。
『カミル! 危険だ。そやつは正気とは言えない』
私を心配してくれるディマ……でも、今のシュビナと向き合わないと一生後悔する気がする。
「大丈夫……シュビナはどんな時も私を傷つけようとしたことないから、それにさ、シュビナは大切な友達なの」
正面に向き合う私とシュビナを見つめるディーラ達。
「カミ……ル、さがれ」
シュビナは正気を失った状態で私を庇うように自身の後ろに移動させたの。
何でだろ……私の頬を一筋の涙が流れ落ちる。
シュビナは怒ってたんじゃない……私を必死に守ろうと呼んでいたんだ……私はバカだ……シュビナの気持ちを考えないで本当にバカね。
「シュビナ……大丈夫だから、私もシュビナも、もう大丈夫なんだよ」
気づいたら私はシュビナを背後から抱き締めていた。
バイキングとしては、かなり小さく細い体、何処に他のバイキングを倒せる力があるのか不思議になる程、人に近いバイキングの王……カルム=シュビナ。
「もう動かないで、大丈夫だから……」
シュビナが私の言葉に耳を傾けた瞬間、丘の上から激しい光が私を避けるようにしてシュビナに襲い掛かったの……
「シュビナッ!」
丘の上には見たことのない、美しい魔女であろう女が立っていたの。
「ハァ、なんとか間に合ったね」と深く息を吐き出した瞬間、私は怒りを拳に込めると無言で魔女であろう女に向けて走り出していた。
私は本気で魔女を塵に変えようとしている……感情が止まらない……赦せないの、なんでかな、本当に赦せない……
「うわぁぁぁぁッ!」
“バギギギギッ!”
怒りの拳を受けたのは魔女ではなく、ディーラの防壁魔法であり、何重にも重ね掛けされた防壁の殆どを粉砕し私の拳は停止した。
あと二枚防壁が遅れていたら届く距離であり、私は悔しくて涙を流していたの。
「なんでよ、なんで邪魔するのよ!」
睨むようにディーラに視線を向けた瞬間、ディーラを守るようにディマ達、森長が攻撃体勢になる。
『控えよ人間! ディーラ様に対する無礼は我等が赦さぬぞ!』
水蛇の【スイジャ】が巨大な口を開き威嚇する。
〔よい、いきなりの事、怒るは至極当然と言えるだろう、小さき人の子よ……今、汝が命を奪おうとした者は汝の友を救ったのだ、その礼がその拳と怒りだと言うのならば、我は止めぬ。今一度、考えるがよい〕
ディーラの言葉に頷く魔女、私はディーラの言葉を信じ、シュビナに駆け寄る、シュビナは気持ち良さそうに寝息をたて寝ていたの。
「……バカ」と小さく呟くと私は魔女の方に向かい歩いていったわ。
「その、勘違いして……ごめんなさい」
言葉が見つからず、素直に謝ると魔女は私を見てにっこりと笑みを浮かべたの。
「アハハ。構わぬよ、何せ儂のミスだからねぇ、シュビナと同様に反動があることをうっかり忘れてしまっていたんじゃ、此方こそ許しておくれ」
呆気にとられている私の後ろからディーラが魔女の元に降り立ったの。
〔久しいな、ミズチ。此度の騒ぎはアラナラムルも心配し我に助けを求めた結果だ。本当に主は危うい道を進む、此方の身になり考えよ〕
「すまないねぇ、と言いながら儂は本来なら、死んでいる筈なんだがねぇ? シュビナは“バルキュリアの針を死ぬまで射たず、儂は時が充ちて朽ち果てる、そう予言したじゃないか、ディーラよ?」
私は魔女の正体が若返ったミズチさんだと気づき、顔面蒼白になったわ。
そのあと、2人の会話はまるで子供の喧嘩のようになっていったの、本当にさっきまで戦おうとしていたのが嘘みたいに和やかな雰囲気が漂っていたわ。
囚人達は再度、ミズチさんの管理の元に置かれ、天井の大穴は私が塞ぐことになったわ、穴の上は城の中庭であり、地上では「魔獣が攻めてきた」と大騒ぎになっているみたい。
そして、気持ち良さそうに眠るシュビナはと言うと……
私の小さな膝を枕に今も寝ているわ……ミズチさんから、罰として膝枕をするように言われたの……凄く恥ずかしいわ。
そんな形で地下の大騒動は幕を閉じたの、本当に踏んだり蹴ったりな感じだわ。